久方の月
ここは夢だろうか。懐かしい甘い匂いがする。
私を優しく抱きしめる彼女は私の大好きな人、千代子だ。
「千代子・・・・・・嬉しい。私やっぱりあなたしか・・・・・・」
思わず駆け寄る鈴の言葉を遮る。
「鈴ちゃん。ごめんね」
「私、彼のことが一番大事なの。今までありがとう」
辺り一面が真っ暗になる。
「どうして・・・・・・!」
涙を浮かべる鈴を振り向くことなく彼女は立ち去っていく。
「いや・・・・・・行かないで・・・・・・」
鈴の声だけが大きく響き渡る。
次の瞬間、鈴は昨日行った神社に立っていた。
月明かりが降り注ぎ、しんと静まりかえる。
はっと気配を感じて振り向くと、透き通るような肌と長い銀髪。
巫女のような赤と白の服に身を包んだ、息を飲むほど美しい女性がそこにいた。背は長身ですらりとしている。
長い睫毛の奥に覗く瑠璃色の瞳がこちらを見据える。
揺れる2本の尾を見て私は尋ねた。
「・・・・・・もしかして、アイ? 」
「 そうだ」
そう言ってアイは鈴に歩み寄り、スッと鈴の頬に手を伸ばし涙を拭う。
「泣いているのか」
「何よ、関係ないでしょ・・・・・・」
と、言いかけた次の瞬間。
いきなり鈴の唇が塞がれた。
「・・・・・・!」
突然の出来事に驚いた鈴は抵抗しようとするが、なぜか逆に身体から力が抜けていく。
訳の分からないまま意識が遠のいていった。
眼が覚めると外はまだ暗い。いつもの鈴の部屋だった。
枕元にすやすやと眠る白狐がいた。
「変な夢だった・・・・・・けどやっぱり昨日のことは現実なんだ」
目が覚めたら全部夢で、白狐が付いてきたなんて何かの間違いではないかと思っていた。
時計を見ると午前4時。起きるにはまだ早いのでもう一度瞼を閉じる。
「夢に見るなんて、まだ千代子のこと私は引きずってるんだ。ダメだな・・・・・・。それにしても、夢の中のアイ綺麗だった・・・・・・」
そんなことを考えているうちに、鈴は再び眠りについた。