百伝ふ
山の麓には幾百の朱が連なっている。
その様は圧巻で、思わず息を飲む。
「すごい・・・・・・綺麗」
鳥居をくぐりながら足を進めて行く。
綺麗な景色とは裏腹に、山頂への道は生優しいものではなかった。
無限に続く階段、急勾配。
運動が苦手な鈴はすぐに息が上がってしまった。
「大丈夫か、鈴」
心配そうに、アイが顔を覗かせる。
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・だ、大丈夫よこれくらいっ」
汗だくになりながら一段、また一段登っていく。
不思議なことにひたすらに階段を上っていくと、不安や、恐れなどの感情がなくなり心が浄化されるようだった。
無駄な感情がなくなり、神様との繋がりが強くなっていくのを感じた。
(ゆっくり来なさい。そんなに急ぐと死んでしまうぞ)
「・・・・・・アイ、今喋った?」
「恐れ多くも、山の上の神様の声だ」
神様が自分たちが来るのを待ってくれている、鈴は感動して涙ぐむ。
歩みを進めてしばらくすると、ぴんと空気が張りつめた空間に入った。
「アイ・・・・・・ここは」
音が一切聞こえない。無音の空間、なにも存在しないような空気感であった。
「空間の歪みのようだな、ここは元いた世界の中とはちがう、異空間だよ」
さすが伏見稲荷というだけあって、不思議なことの連続であった。
途中で水分補給などもしながら、ゆっくりゆっくり登っていく。
だんだん人がまばらになり、いよいよ頂上まであと少しの所に着いた。
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・もう少し」
最後の急な階段の先に神様は居た。
アイは深々と頭を下げて御前に座る。
鈴も手を合わせ祝詞を唱えた。
すると手に電気が走ったように震えた。
「な、なにこれ・・・・・・」
「神様がちゃんとお話を聴いてくださっているんだよ」
2人で並んで、心を込めて祈りを捧げた。




