山たづの迎へ
梅の花が散り、日に日に暖かい日差しを感じるようになって来た。
テレビのニュースで桜の開花について取り上げられているのを見てしまい、びくっとして目をそらす鈴。
春が来たら、お別れなんだー。
未だ実感が湧かないが、考えるだけで身が引き裂かれるほど辛い。
後で後悔しないように思い出作りをしたい、と鈴はアイを旅行に誘った。
「旅行か、いいな。どこへ行きたいんだ?鈴」
「京都に行きたいの、一緒に行ってくれる?」
数日後、新幹線の窓から見える富士山をアイは夢中になって眺めていた。
「アイ、人間の格好だと疲れちゃうんじゃないの」
「昨晩たっぷり霊力をだれかさんから貰ったからな」
とこちらを見て悪戯そうにウインクした。
「な、ならいいんだけど・・・・・・」
昨晩の契りを思い出して恥ずかしくなりうつむく鈴。
「間も無く京都です」
しばらく新幹線に揺られているうちにうとうとしていた鈴はハッと起きてアイの手を急いで引いていく。
新幹線を降りると、鈴はタクシーに乗り
「伏見稲荷大社まで」
と告げる。
「なるほど・・・・・・伏見稲荷に連れて行ってくれるのか。少し恐れ多いな」
アイは笑いながら言う。
伏見稲荷に着くと、アイはきょろきょろしながら歩いていく。
どうやら、無数の狐がじっとこちらを見ているらしい。
アイの話を人間に置き変えると、アイは支店の社員で、今総本社の会社に入っていく感じのようだ。
珍しくアイが緊張していて鈴はくすくす笑ってしまう。
山を登った天辺には一番偉い神様がいるそうで、今からアイはぺこぺこしている。
支店長が会長に会うような気分なんだろうかー
などと鈴は考えた。




