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海の底

年の瀬。

アイは暫く姿を見せなくなった。



「年末年始は・・・・・・忙しいんだよね、きっと」


そう言い聞かせた鈴は、寂しさを紛らわせようとぶらぶら出かけてみたり、ぼーっと動画を見るなどして過ごした。


友達とも会ってみたりしても、ふとした拍子にアイのことを思い出してしまう。



アイの優しい瞳が、声が、手が・・・・・・。

ついこの間まで毎晩一緒に過ごしていたのが夢を見ていたようにぼんやりと浮かぶ。



友達と会った帰り道、鈴は静かな夜の街を歩いていると木枯らしが寂しそうな木をざあっと揺らした。

身震いしながら鈴はぽつりと呟く。


「1人って・・・・・・こんなに寂しいんだっけ」


目に涙が浮かんで来た。


(ああそうか。アイが来れないなら、私が会いに行けばいいのか)


踵を返し、久しぶりに神社へと向かう。



夜の神社はしんと静まり返っていた。そこだけ空気が浄化されているような雰囲気で神秘的な気持ちになる。


本殿は提灯に火が灯され参拝客を夜でも受け入れていた。


本殿を横切りアイの居る社へ向かう。


鳥居の前に立ち、祈りを捧げる。



「会いに来たよ・・・・・・」


シャン。と鈴の音が聞こえ、遠くからアイの声が聞こえた。


(鈴。会いに来てくれてありがとう)


久しぶりのアイの声に胸がきゅうっと締め付けられ、言葉に詰まる鈴。



(長いこと行けなくてすまない。年末年始はいろんな仕事があってなかなか抜けられないのだ。それと・・・・・・聞いて欲しい。)



鈴は嫌な予感がしてぎゅっと口を結んだ。


(実は鈴の側にいられるのは、春までなのだ。)



「春までって・・・・・・」


(去年の春、神さまにお願いしたんだ。鈴のそばにいれるように。その期限が、1年なのだ。黙っていて、すまない)


「もうすぐ春が来るのに・・・・・・?」


(年末年始は忙しくてそちらには行けない。2月に、また会おう。待てるか?鈴)



「待つよ・・・・・・アイも私のこと、ずっと待ってたんだから」


涙が溢れてくる。


アイの姿は見えないがニコッと笑った気がした。


すると、冷たい風とともにアイの気配は消えてしまった。



鈴は綺麗な星空を仰ぎ、白いため息をついた。

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