春霞立つ
帰り道を歩きながら分かったことがある。
この白狐は神社の神様の使役といういわばおつかいみたいな役割で、本殿へお願いを届けてくれているということだ。
どうやら私と波長が合って付いてきているらしい。
「名前は? 」
「アイだ」
「私は鈴よ。・・・・・・どこまで付いてくるの? 」
「お前の家までだ」
淡々と、そっけなく話すこの白狐のアイは、 やはり他の人たちには見えていないようである。
綺麗な尾を2本持っていてもふもふで気持ち良さそうだが、まだ触る勇気はない。
「うちに着いたよ」
「そうか、腹が空いたのだが、何かあるか?」
唐突なおねだりに驚く。
「やっぱりお揚げとかが好きなの? 」
「昔は野菜と一緒にお揚げが供えられていて、我らは野菜は苦手だから唯一食べられるお揚げを食べた。それ故お揚げが好きだと勘違いされているみたいだな」
「ええっ? そうなの」
鈴は驚いた。稲荷の狐イコールお揚げではないのか。
「狐によっても好みはあるが、我は鳥の唐揚げとか葡萄とか、団子が好きだ」
「知らなかった・・・・・・」
意外とグルメなんだな、と鈴は妙に感心してしまった。
都合よく葡萄などはなかったので、鈴は頂き物のお菓子を持って来るとアイはぴょんと嬉しそうに跳ねた。
「これをどうすればいいの」
「手を合わせて、おあがりくださいと言われれば食べられる」
「おあがりください・・・・・・ 」
言われた通り手を合わせ、そう呟くとアイは饅頭の近くでぱくぱくと食べる仕草をしていた。
実物がなくなるわけではないようだが、とても美味しそうにしていてちょっと可愛かった。
夜電気を消して布団に入ると、アイは窓から月を見つめていた。
「おやすみ」
そう言って鈴は瞼を閉じた。




