鳴る神のおと
それからというもの、暇を見つけては少女は祠に遊びに来た。
時には母親から叱られたらしく、めそめそ泣きながら来ることもあった。
アイは優しく傍に寄り添い、涙をぺろぺろと舐めて少女を慰めた。
「狐さんのお名前は、なあに」
祠の石のすすを払いながら少女は尋ねる。
「名前は、ない。」
使いになったばかりなので名前なんてなかった。
「うーん、じゃあ」
少女は天を仰いで考えた。
「アイ、なんてどう。愛情の愛よ、素敵でしょう。この世に私たちは、愛について勉強するために生まれてきたって母上が言っていたわ」
こくりとアイは頷く。
「よかった!よろしくね、アイ。ほら、アイのお家が綺麗になったでしょう」
小さな手で一生懸命祠を掃除してくれた。中央に花も供えられている。
アイの胸は暖かくなった。
少女が手を合わせると、アイは暖かな力が確かに湧いてくるのを感じた。
「・・・・・・願いを」
アイが呟く。
「えっ、いいの。それじゃあ・・・・・・最近雨が降ってなくて町の人が困っているの。雨が降ったらいいな」
アイが空に向かってひと吠えすると、さあーっと雨が降り出した。
近くの古民家から住人の声がする。
「ややっ、晴れているのに狐の嫁入りだ。恵みの雨だ!」
少女はにこーっと振り返り、
「アイはすごいね。ありがとう」
頬に口づけをした。
アイはとても嬉しい気持ちになった。
祠の噂は次第に広まり、年々参拝する人も増え、とうとう稲荷神社として祀られ立派な鳥居が立つまでに信仰を集めた。
毎日のようにきていた少女は、月日が経ち大きくなるにつれ徐々に祠に来ることが減っていった。