若草の新
この頃のアイは丘にある小さな壊れかけの祠にいて、霊験も乏しく、力不足でなかなか大きな願いを叶えることができなかった。
故に信仰も集められず、誰も来ない祠でひっそりと過ごす日々であった。
ある日、鬼遊びをしているらしき五つくらいの娘が1人駆け寄ってきて手を合わせこう言う。
「祠の神様、少しの間隠れさせてください」
久しぶりに手を合わせてもらい、アイは嬉しくなったので思わず狐の姿で少女の前に現れた。
「わあ、可愛い白狐さん。どこから来たの。一緒に隠れて遊ぶ?」
無邪気な少女と一緒にアイは祠の陰に隠れた。
「あっ、鬼の子が来たわ。見つかりませんように・・・・・・!」
女の子の声を聞いたアイは、石をふわりと持ち上げ、ぴゅんとあちら側に投げてみせる。
女の子は目を丸くした。
こつん!石が音を立てたので、鬼の子は一生懸命反対側を探して首を傾げながら走って行ってしまった。
「あなた凄いのねえ!」
「・・・・・・神の使いだからこのくらいは大したことがない」
「まあ、お話もできるのね。もしかしてこの小さな祠はあなたのお家?」
「・・・・・・そうだ」
アイは少し恥ずかしそうに言った。
夕日が傾いてきたことに女の子が気づき、
「ね、また遊びに来ていいかしら。」
「ああ、たそがれ時は危ないから、気をつけて帰れ」
「はーい」
にこにこしながら少女は帰っていった。