飛ぶ鳥の
小さな赤い鳥居の両隅には、厳しそうな顔をした狐の像がある。ぴりりとした空気に鈴は背筋を伸ばし、しっかり挨拶した。
鳥居をくぐると、門があり、そこを開けて中へ入る仕様だった。
いかにも「一見さんお断り」の場所のようで、アイから聞かなければ見過ごしていたであろう。
門の向こうに一歩踏み出すと、一気に空気が変わるのを感じた。
結界に踏み入れたような感覚に鈴は驚く。
「アイ、ここ、入っていいんだよね・・・・・・?」
「もちろんだ。ただし、遊び半分で来る場所ではないがな」
鈴が歩いていくとそこは洞窟のようになって岩肌に囲まれており、上には提灯が連なっていた。
一番奥に祠、そしてその横の穴の向こうにも何かが祀られている。
まずは祠に手を合わせ祝詞を唱えると、祠の下の小さな穴に、可愛らしい子どもの狐の姿が見えた。
(ミニサイズの狐、可愛い・・・・・・)
「ここに住んでいるようだな」
アイが解説してくれた。
ほっこりした気持ちになったのも束の間、横の穴からものすごい「気」が流れて来たのが分かった。
大きな穴は暗くて何も見えない。
しかしそこには、たしかに大きな白狐が祀られていた。
とても厳しい目でじっとこちらを見ているので、少々鈴が怖がっていると、
「大丈夫だ、鈴。ちゃんと丁寧に心から参れば、お護り下さる」
アイからのアドバイスを受け、蝋燭に火を灯し祝詞をあげた。
たくさん人が来る本殿とは違い、しんと静まり返っているこの場所で炎の揺らめきをただひたすらに眺めていると、まるで異次元にいるような感覚に陥った。
「上からも見られている気がするんだけど」
鈴はちらりと天井近くの窓を見やる。
「よく気づいたな。あちらの方も厳しい方で、ここに来る一人一人をよく見ているから真摯な心で詣でなさい」
「わかった・・・・・・」
この空間で手を合わせていると、だんだんと自然と身体の芯が通るような気がした。
参り終えた鈴は、
「頑張りなさい、って励まされたような、背中を押された気がする」
とアイに感想を伝えた。
「それは良かったな。近くで雨の音がするから、今日は帰るとはいい」
アイの言葉のまま、鈴は帰宅の途についた。