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短編

趣くままに

作者: 佐々木尽左

 磯の香りに惹かれて道なりに進むと、急に視界が開けた。

 抜けるような青い空に陽光を照らし返す碧い海。

 視界の先には木々に覆われた島が見える。

 涼しい潮風と一枚絵になるような風景が暑さを吹き飛ばしてくれた。

 しばらくして海岸より手前に集落があることに気付く。

 一見すると誰も居ないように見えた。

 しかし、たまに何かを担いで歩く人や海沿いの道を進む車が認められた。

 歩み続けると、微かに息づかいを感じる民家がいくつか現れた。

 どこにでもあるような古めの家。

 でもやけにしっくりと風景に溶け込んでいる。

 面白みはないかもしれないが、違和感もない。

 そんなところが気に入った。


 民家に多少の手を加えた程度の飯屋に入った。

 数人も入ればいっぱいになる室内に、ラジオ番組の音声が適度に満たされている。

 手渡されたおしぼりで顔を拭きながら、壁に貼られているメニューを眺めた。

 注文したのは時雨煮と飯の大盛り。

 何となく引っかかったものを頼んでお冷やを飲み干す。

 注文はすぐに出てきた。

 飯の量がやたらと多いが今の私にはちょうど良い。

 不釣り合いなまでに少なく見える時雨煮を少し箸で摘まんで口に放り込む。

 続けて飯を多めに入れて噛みしめる。

 口内の粘膜を通して磯の風味が染みこんでくるようだった。

 私は更に飯をかき込んだ。


 食後はビールを頼んで、外の景色を見ながら手酌する。

 相変わらず空は青く、海は碧い。

 最初に見えた緑の島がここからも見える。

 その島の上を一羽の隼がゆっくりと横切ってゆく。

 空から眺める景色はどうだろうか。

 きっと爽快に思えることだろう。

 ただ、ずっと飛び続けていると飽きるようにも思える。

 さっきの隼だって木の枝に止まるときはあるのと同じだ。

 そうなると、私の旅もいつか終わりがくるのかもしれない。

 そのとき私が止まる木の枝は一体どこなのだろうか。

 いつの間にとりとめもなく考え事をしてたらビールがなくなった。

 頃合いか。


 私は飯屋を出て再び歩く。

 行く当ては特にない。

 気の向くまま、飽きるまで歩き続けるだろう。

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