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放課後のフェチズムウォー  作者: 金髪先生
2/2

2.二人の変態

ようやく第2話です。拙い文ですみませんが楽しんで貰えたら幸いです。温かい目見守ってくださいませ。

 英語の先生の一言で死闘は始まった。

 I have a sister.

「これを皆で訳してみましょう。せーの」

「私には一人”妹”がいます」

「私には一人”姉”がいます」

 …………。

「「あん……?」」

 クラスの空気が一瞬で凍りつく中、変態達は実に穏やかな仏スマイルだった。

 見る者の背筋を凍らせるような見事なまでの。

 このようなことを人は嵐の前の静けさというのだろうなぁと思ってしまうぐらい、ニコニコしたまま授業を受けていた。

 そして帰りのHRが終わった今、闘いの火蓋が切って落とされたのだ。

「そこは妹と訳すべきだろうが!」

 そう叫びながら放つ渾身の右ストレート。

 それを軽々と左手で払いのけると、

「姉と訳すべきだろうがッ!!」

 と叫びながら素早いフットワークで懐に潜り込み、顎を目がけたアッパーを放つ。

 アッパーは綺麗に顎に吸い込まれ……。

 衝撃。

 しかし彼は少しも動かなかった。

 普通の人間なら脳震盪で気絶するぐらいの威力だったが、妹の加護を受けた肉体にはあまりダメージが無かったのだ。

 すぐさま彼は懐から離れようとしたが、

「何ッ!?」

 いつの間にか自分の足が踏まれていて動けないのだ。

 動揺している間にも、全体重を乗せて放つ重い拳骨が迫ってくる!!

「危ねッ!?」

 彼は紙一重でスウェーして避ける。

 床に放たれた拳骨は2-Jの教室だけでなく校舎全体を揺らした。

 とんでもない超人変態たちの喧嘩に巻き込まれないようにと、流石に無視を決め込んでいた生徒たちが、慌てて廊下に飛び出し走り去って行った。

 教室に残っているのは変態二人だけである。

「ようやく誰もいなくなったからそろそろ本気でやろうじゃないか?なぁ東条?」

 東条と呼ばれた姉好きの変態は、つまらぬものを見たかのような顔をした。

「はぁ?何言ってんだ綾辻?お前ごときに本気をだすほど俺は安くねぇよ」

 綾辻と呼ばれた妹好きの変態は東条の挑発に対し、馬鹿にしたように鼻で嗤った。

「はっ、お前ここで負けたら言い訳できなくなるからそう言ってるんじゃないのか? 姉ごときよりも妹の方が需要が高いとなァッ!」

「抜かしたことを言ってるんじゃない‼」

 すでに二人のボルテージは最高潮に達しており、凄まじいほどに高まった変態力が身体能力を文字通り"人間離れ"するほどになっていた。

「ついてこいよ東条。校庭でケリつけようぜ。」

「望むところだ!」

 床を一蹴り。

 盛大な音と共にVIP御用達の強化ガラスに亀裂が走る。ウン十万もするのに。

 二人は校庭まで"飛翔"し、空中で向かい合うと、あんなに快晴だったはずの天気が急に曇り、ついに雨まで降ってきて、外で練習していた野球部員達やサッカー部員達が、蜘蛛の子を散らしたように校舎に避難していった。

 二人が構えをとると、風がいっそう強く吹き荒れ、サッカーゴールが天高くに打ち上げられる。

 変態共の争いに巻き込まれたサッカー部員は涙目である。

 校舎の中にいる先生や生徒達が固唾を呑んで見守るなか、先に動いたのは、綾辻だった。

「ふっ――!」

 気合いと共に一直線に東条の元へ突っ込む。

 東条もまたそれに答えるように、綾辻の元へ突っ込んだ。

 校庭のど真ん中でお互いノーガードで激しい爆発音を伴わせながらラッシュをかける。

「妹妹妹妹妹妹妹ォオオオッ!」

「姉姉姉姉姉姉姉ッツツツッ!」

 もはや二人の変態力が具現化し背後には守護霊のような存在が出現するレベルにまで至っていた。

「震えるぞ脳髄! 萌え尽きるほどずっきゅーん! 刻むぜ姉のハート!」

どっかで聞いたことがあるフレーズと共に重くて鋭いラッシュを繰り出す。

そのラッシュを高く後ろに跳んで回避した綾辻は先程の風圧で飛ばされていた物体をがっしり掴んで叫んだ。

「サッカーゴールだ!」

またもやどっかで聞いたことあるフレーズ共に振り回したサッカーゴールは東条の脳天に直撃する――!

「ふんッ――!」

気合と共に放たれた渾身のアッパーは自身の体重の数倍は重いであろうサッカーゴールを再び空へ吹き飛ばした。

みるみるうちにサッカーゴールは空の雲を突き破り遥か彼方へ消え去った……。

宇宙ステーションに届くんじゃなかろうかと思わせるぐらい、とても常人では出来ない芸当だが、それも彼の姉に対する熱い変態力の賜物であった。

そんな第三部を彷彿とさせるような死闘は、そろそろ終わりを迎えようとしていた。

激しいラッシュを何度も繰り返し、お互いボロボロで浮遊するのもやっとの状態であった。

「なぁ、東条。そろそろ決着をつけようぜ? お前、まだ本気じゃねぇだろ?」

「貴様こそ本気をだしてないだろうが?」

「ありゃ、ばれてた?」

「当たり前だ」

そう東条に指摘され、綾辻はやれやれと首をふった。

「それじゃあこの一発で……」

「ケリをつける!」

この戦いの中で一番であろう、雄叫びと共に互いが相手に一直線に飛んでいく。そのスピードは衝突することも恐れず加速していく、さながら流れ星のようだった。

みるみるうちに互いの距離が縮まり……。


衝撃。


今までとは比べ物にならないくらい凄まじい爆音が校舎を襲う。

校舎内の生徒や先生はあまりの爆音に腰を抜かした。

校庭にもうもうと舞う砂埃が次第に落ち着き、二人の姿が見え始めた。

どうなった!? と窓に近寄る生徒達、先生達。

その視線の先には……。

「はぁ、はぁッ!勝ったぞ!」

綾辻が地に足をつけて立っていた。

そしてもう片方の東条は地面に突っ伏していた……。

勝負とは残酷なものである。

気合と愛情だけで結果が変わるのはアニメの世界ぐらいなものだ。

現実は甘くない。何も変わらない。

「姉……。あ、姉ぇッ!」

あれだけの威力のダメージまともにくらいながら、なおも勝とうする執念を見せる東条を後にして、せめて勝者らしく、敗者のために、高らか宣言した!


「姉より妹こそ至高!これからの世の中は妹こそせ


ドゥウウウン!という地面を揺るがす音と共に空から綾辻の頭上にサッカーゴールが落ちてきた。

幸い、綾辻には直撃せずに、すぐ隣に落ちてきたが(していたら流石に死ぬレベルの威力)、その衝撃のすぐそばにいた綾辻はというと……。

「…………………………」

バタンという音と共に地面に倒れた。

そうあまり出来事に心身共に疲れ果てた綾辻は気絶してしまったのだ。

東条の姉に対する愛は、今確かに奇跡を起こしたのだ!!

となるとこの戦いの行方は……?

「引き分けだな」

いつからいたのか倒れた二人のそばに若い女性が立っていた。

闇夜のような黒髪と、雪のような、何色にも交わらない真っ白な肌。そして母性溢れる胸。異性だけでなく、同性ですら目を奪われてしまうような、天から与えられし美貌を持った彼女こそ。

「私立神ヶ崎高校!校長の神ヶかみがさき 天音あまねが更正にこの綾辻あやつじ こう東条とうじょう 秀明ひであき性癖決闘フェチズムウォーに審判を下す!両者戦闘不能と見なし、この決闘を引き分けする!なお両者を直ちに保健室に担架で運ぶように!」

校長の神ヶ崎 天音の一声で教師陣が倒れた二人を担架で保健室に連れてき、固唾を飲んで見守っていた生徒が疲れ果てた表情で次々に帰っていった。

こうして長いようで短いような二人の変態の性癖決闘は幕を閉じたのであった。


「うん。あの綾辻君と東条君いいね。観察していて面白いな!」


そして新たな性癖戦闘フェチズムウォーの幕も上がろうとしていたのだった。

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