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猫の恩返し(仮)  作者: 陽子
5/10

第五話

最近暑いですね〜


そんなお話



《前回のキーワード》

○○××▲▲▽▽(※放送禁止)

 夏が来た 暑い、暑い 夏が来た

 どうも、室町時代に生まれても俳人になれない田所博吉です。この暑い中俺は生きてます。

 この通り 俺は生きてる なんとか(字足らず)

 それにしても暑いです。いや、マジで暑いです。一歩外に出れば降り注ぐ太陽の熱による灼熱地獄で、頭から湯水のように汗が出るわ出るわ。いっそお金もそんな風に湧きあがってほしいものだが、そんなうれしい不思議が起こらないのが現実だ。ついこの間までぽかぽかあったけぇーなぁ、と思っていたのに、夏はいつも唐突にやってくる。そんなに暑いならクーラー付けたらいいじゃな

いって? うん、そうだね。俺も実は死ぬほどそうしたいよ。でもね、それが出来ないんだよ。

 クーラーがぶっ壊れたから。

 正確に言えば、ぶっ壊されたんだがな。言うまでもなく、ウザの仕業だ。

 五日前。汗を吹き出しながら俺がへとへとでバイトから帰ってくると、むわっとした空気が俺を迎え撃った。まずそれにもびっくりだが、その空間の一角でウザが汗をダラダラ流しながら静かに体育座りをしていたのだ。珍しいこともあるものだな、明日は雪か? そう不思議に思いつつ、「ていうか、クーラーつけろよ。こんな暑い中一人我慢大会かバカが」と、心の中で毒づき、とにかくこのほとばしる熱い熱をどうにかするためクーラーを付けようとリモコンのスイッチを押した。しかし、おかしなことにクーラーが冷気を送り出す気配が全くしない。というかそれ以前に、確かにスイッチを押したはずなのに、ピッという電子音が鳴らない。何度連打しても鳴らない。嫌な予感にリモコンの方向を辿って見ると、そこには無惨に変形したかつてクーラーだったものがありましたとさ。

「ご……ごめんなさい」

 そうウザが強張った笑顔で言った瞬間、俺の頭からは汗ではなくマグマが噴出した。どうしてこうなったのかというと、バッドでブーメランをして遊んでいたら見事ヒットしてしまったらしい。おまえの頭の中に詰まっているものは綿菓子か何かか? 本当にこのクソ暑い季節によくもやらかしてくれたな。俺に理性というものがなかったら、おまえが背中に隠していたモロ見えのバッドでクーラーと同じ形状にしていただろう。とりあえず、その汗は暑いからなのか冷や汗なのか教えてくれないか?

 翌日修理を頼んでみたが、ここまで壊れていたら買い直した方が早いと、プロからお手上げ宣言されてしまった。しかし、先月店長のうっかりで給料がいつもの三分の一しか入ってこなかったおかげで、今我が家は絶好調に貧乏なので、一番安いのですら買う余裕がない。その代わり、次の給料は残りの三分の二にさらに上乗せしてくれるとのことなのだが、その次の給料日が二週間と三日後という。そんなわけでノークーラーデーが続いている。まさに地獄だ。昼はもちろん、夜も引き続きムシムシしてて寝苦しいし。窓を開けても、吸収した熱は放出する、ということをおそらく知らないアスファルトという膜で覆われている地面は、夜になったら涼しいであろうというこちら側の期待を見事裏切ってくれた。あれほど今のこの住みやすい世の中を恨んだことはない。 できれば戦後に生まれたかったと、生んでくれた親に対して恩知らずなことを思った。にしても、にしてもだ。

「あ、あぢぃ~……」

 暑い。クソ暑い。オニ暑い。死ぬほど暑い……!! このまま氷のように溶けて床のシミになってしまうんじゃないかと思うぐらい暑い! しつこいようだが冗談抜きで本当に暑いんだから仕方がない。

 いろいろ長々と語ってきたが、要するに俺らはこの数日クーラーのない一室で暑さで死にかけている。クーラーのない夏なんて、TUBEがかからない夏の有線と同じくらいクソだ。ついでに、広瀬香美がかからない冬の有線ぐらいクソだ。せめて窓を開けたいが、こんな日に限って朝謎の異臭が発生し、原因解明と問題が解決するまでは窓を開けないでくれとのお達しがきてしまい開たくても開けられない。おかげさまで熱気が籠り倒している。まるでサウナだ。あまりの暑さに食欲も微塵も出ない。おかげで体重が五キロも減った。そんな度重なる諸々の事情により、体中から汗を湧きだして、この世の終わりのように床に倒れ伏している。

 あー……、しばきたい。今目の前で俺と同じように床に這いつくばって死にかけている、この暑さの諸悪の根源を気が済むまでしばき倒したい、という欲求が暑さからくるイライラも手伝っていつもより絶好調に鰻上りだ。俺が憎しみを込めて眉間に汗の通り道を作りながらそやつを見ていると、目が合った。最悪。するとヤツは這いつくばっている床に突如「愛している」と汗で書き出した。本人曰く“愛しているのサイン”らしい。おかげで汗の通り道は二本に増えた。サインだかダイイングメッセージだか知らねーが、このクソ暑い中むさ苦しいことすんじゃねーよ! マジでkillしてdieさせてやろうか。あー、だめだ。イライラし過ぎてだめだ。いつも以上にバイオレンスなことが頭に浮かぶ。こんな時には、そうだ……愛しの美柑! と思ったが、今は家族水入らずで海外旅行に行ってるんだった。しかもイタリア。普通に遠い。そしてリッチ。くっそー、なんでこんな暑苦しい空間に、暑苦しいヤロウと一緒にいにゃいかんのだ! どうせなら愛くるしい美柑と一緒にさわやかに汗を流したい。でもそれができない。……俺さっきからこの虚しいだけのループどんだけ繰り返してんだ?

 この状態でなんとか生きながらえているのは、普通のサウナと違い冷蔵庫もお風呂もあるということだ。よかった、水道は無事で。それまで壊されてたらたまったものではない。と、ここまで考えて俺は素敵なことを思い出した。

 ――そうだ。冷凍庫にアイスキャンデーがあるんだ!

 昨日のバイト帰りに買ったんだ。この地獄を乗り越えられるよう二箱も。まったく食欲はないが、味の付いた氷のかたまりならば食べれそうだ。いきなり生きる力が湧いてきた俺は、一目散に冷蔵庫目がけて四足歩行で駆けて行った。カラッカラだったはずの口から、もう出ることも忘れたと思われた唾液がにじみ出てくる。あぁ、これで少しはこの暑さから解放される……! さぁ、給料日前だが生きるために買ったアイスキャンディーちゃん、俺の熱い熱い口の中で溶けるがよい!! 俺は逸る気持ちで冷凍庫を勢いよくオープンした。アイスキャンディーアイスキャンディー、アイス……? アイスキャンディー……が、ない!? 開けてびっくり。なんとそこには二つの空箱がひんやりと冷えていただけなのだから。俺はこの状況に思わず凍りついたが、この暑さのおかげで一瞬でそれを解くことができた。そして、ぐるんっと後ろを振り返った。予想通り、ウザの横に大量のアイスキャンディーの棒が散らばっていた。さっきから苦しそうに唸ってるのは暑いからではなく、冷たいもの食いすぎたせいで腹壊してしまった故か! その光景とウザの「暑い……」の一言で、とうとう、俺の大事な大事な糸は切れた。

「ふーざーけーんーなぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!」

 怒りで完全にヒートアップした俺はウザを気が済むまで痛ぶった。そして、ウザに金を持たせてコンビニまで走らせたら、氷を買うためのお金をすべて自分の好きなお菓子やジュースに変えて戻ってきたボケを、汗をまき散らしながらしばき倒したことは言うまでもない。


《第五話 終》

《次回》

この学校で一番美しいのは誰?

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