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猫の恩返し(仮)  作者: 陽子
2/10

第二話

ピチピチの新キャラが登場します。


【前回のキーワード】

イン ザ ジャパン

 俺、田所博吉大学三年生。顔並、成績並、運動神経そこそこの平凡で面白みもなければ魅力のかけらもないただの男……て、ほっとけ!

「ひっろーきょうどしたのー? おめかししてー」

 このウザったい(元)猫が家に転がり込んで早数日。毎日毎日このあほに振り回されっぱなしで、おれはうんざりしきっている。

「ウザ。ちょっとの間だけ家出てってくれね」

 だが、今日の俺は朝からうきうきわくわくしている。

「えーなんで?」

 なぜなら!

「彼女来るから」

 ガッチャン!

 もの凄い音がしたので振り向くと、ウザが顔面蒼白で顎はずれてるんじゃないかってぐらい口を縦に開けて固まっていた。なかなか傑作な変顔だが、それよりも俺はシンクに落としたであろう食器の方が気ががりで仕方がない。こいつに皿なんて洗わすんじゃなかったな。

「か、かか……ッ! かの、かのかののっのの、の、カノジョデスッテ!?」

 俺に彼女がいたという事実がそんなに衝撃だったのか、こっちもビックリするほど動揺していた。

 あれ? 俺言ってなかったけ? まぁ、聞かれなかったし。

 余程ショックが大きいのか、相変わらず傑作な顔で口をパクパクと開閉を繰り返しているウザに対し、俺はいつも通りの素っ気ない態度で素っ気なく思った。

「そんなっ……どーかんがえてもいなさそうなかおをしてたからあんしんしきってた!」

「しばいたろか、おまえ」

 なんちゅー失礼なヤツだ! そら冒頭で明らかに彼女いないだろと思われても仕方ない紹介してましたけども! この俺を侮辱するとはいい度胸じゃねーか。

 そんな名誉棄損野郎は、尋常じゃない早さであちこち痙攣していたかと思うと、突然膝から崩れ、わっと泣きだした。

「ヒドイ! ヒドすぎる! あんなにはげしくぼくをもとめてきたくせにぃーー!」

「いつだ!? どの日を言っている!」

「ゆめでなんどもぼくのからだなめまわして、『おまえのからだアンビーバボルー!』っていってきたくせにぃー!」

「言うか! そんなわけわからんセリフ! つーか、夢かよ!」

「そして××を××して……ぐふふっ」

「夢で勝手に俺を汚すな! そして思い出して笑うな! 気色悪い!」

 このウザったい(元)猫が来て早数日。なんとか貞操を守ってはいるが、さすがに夢の中までは無理だったか。まぁ、所詮夢だからいいけども、聞いてしまうとやはり気持ちのいいものではない。

「いやだ! でていかない! せっかくひろがぼくのものになったのにぃ!」

「いつおまえのモノなった!? 勝手な妄想で勝手に盛り上がるな!」

 ダメだこいつ、夢と現実がごっちゃになっちまってる! 涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔で猛反発してきたウザに俺も怒鳴り返した。一応こうなることは予想していたが、やはりめどくさいことになったな。

「とにかく出ていけ! もう来るんだ! 部屋も片付けたいんだ!」

「いやだ! でていかない!」

 やはり頑なに言うことを聞こうとせず、ウザは床に這いつくばって抵抗している。しかし、こちらも負けてはいられない。

「出ていけ!」

「やだやだ!」

「出ていけ!」

「やだやだやだやだ!」

「出ていけ、つってんだろ!」

 ついに、俺は渾身の力で床からウザをひっぺ返し思いっきりベランダから放り投げた。たぶん、そのままきれいに落下しただろう。ここは四階。まぁまぁ高い。なに、猫だからこれくらいでは死なん。確かちょうど真下に木が生い茂っていたから、クッションになるだろうし。

 さて、これで邪魔者はいなくなった。さっさとイチャイチャ空間作るぞ!

 そうそう、片付けている間に俺の彼女のことを軽く紹介しようじゃないか!

 俺の彼女の名は楠美柑(くすのきみかん)。一応言っとくが本名だ! かわいい名前だろう? 名前もだが見た目もかわいい彼女はうちの大学のアイドルで、入学してから異例の二年連続ミスキャンパスに輝いたほどの抜群の容姿を誇る。今年の学園祭もV3は確実だ。そんな可愛い可愛い彼女が今日久々家に来るのだ。最近、お互いゼミの宿題やらなんやらで中々会えなかったしな。この数日で溜まりに溜まった老廃物を存分にデトックスしようじゃないか!

 ぴんぽーんっ

 はっ、このかわいらしいチャイムの音は……!

 そうこうしている内に、今まさに自慢しまくっていた彼女の訪れを告げる音が軽快に部屋に響いた。俺はあまりの嬉しさに、自然に出たスキップがもつれそうになりながら玄関に急いだ。まず、覗き穴からその愛くるしい顔を拝ませていただこうじゃないか。俺の鼻息で度々曇るが、そこにはちょこんっとかわいらしく立っている、愛しい俺の天使が!

「ひーちゃん、いないのー?」

 ほら、声もかわいい! ドアを隔てて聴こえてきたそれに思わず腰が砕けそうになった。あぁ、早くその小鳥のさえずりよりも心地いい声を直に聴きたい……!

「あー、ごめんごめん。今開けるよ」

 即座にカッコつけたが、鼻の下を伸ばしまくりのまったく無意味な顔で俺はやっと美柑を出迎えた。

「おっじゃましまーすっ」

 ドアを開くと、まぁ、どうしましょう。そこには、もう「かわいい!」としか言いようがない、花が咲いたような笑顔を向ける俺の恋人がいるではないか! そのかわいさをさらに引き立たせるピンクの花柄ワンピースが初夏の風に良く似合うぜ。俺としてはもうちょっとスカートは短めが好みだが、美柑が着るものならもう何でもいい。

 はぁ、それにしても本当にいつ見ても完璧だ! 体にビー玉が乗っかってるのかと疑うほどの小顔に、お目々ぱっちりビューラーいらずのくるりんっカールのロングまつ毛とぷるんっとしたピンクの唇に、白雪姫ばりの真っ白なスベスベお肌! いつものようにポニーテールで束ねられた外ハネふんわりセミロングが、美柑が動くたびぴょんぴょん跳ねてかわいらしい。服装もワンピースに丈が短めのGジャンと白スニーカーという、甘さ抑えめのカジュアルスタイルで気を張らず、ファッションセンスもいい! しかも、このロリロリキュートな顔で、ぷくっと大きく膨らんだおっぱいという犯罪的アンバランスボディ! まさに男の理想、いや、俺の理想を絵に描いたような女の子だ! 本当に、この子を産んでくださったお母様と神様を崇め奉りたい!

 こんなかわいい子、俺から告白したと思うだろう? ところがどっこい! なんと彼女から告白してきたのだ! 「頭にあったアホ毛を発見して、抜きたくてしょうがなくてずっと見てたら、気になってしょうがなくなってたの!」と、わけのわからん告白をされたが、そこは彼女の持ち前のキュートさ可憐さで問題ない。何より、俺も美柑のことが気になっていたのだから、この際内容なんてどーでもよかった。友人達には散々妬まれ蔑まれ財布スッカラカンになるまでおごらされるわ、全校生徒どころか近隣校の男子生徒全員を敵に回してしまい、会う奴会う奴すれ違いざまに鞄当てられたり足ひっかけられたり肩をぶつけられるわ、ファンクラブ会長(小学校から精力的に活動していたらしい)のボクシング部のゴツイ部長の先輩に三週間サンドバッグにされた挙句、プロレス技を一通りかけられたりもしたが、そんなもの逆に快感に感じるくらい愉快なものだった。汗といっしょに涙と鼻水が飛んできたことだけは、今でも思い出すだけで不愉快だが。

「そーだっ今日ね、夢にひーちゃんがでてきたよ!」

 一人のほほと浮かれている俺に、持参してきた雑誌から美柑は顔を上げ、思い出したように言った。

「へーそうなの? どんな夢?」

「顔と手足はひーちゃんなんだけど、体はつまようじなの。で、『ケツ振りたいのにケツがない~』って歌いながら踊ってたら、正面から来たダンプに思いっきり轢かれて体が真っ二つに折れて、『俺の細胞マジ剛毛!』って言って死んじゃう夢」

「……へー、そーなんだ」

「チョー爆笑で起きたよ」

 どうやら、俺は人の夢でろくな目に合ってないらしい。でも、美柑が爆笑して楽しかったんならそれで良し! あぁ、思い出し笑いしてるよ。よっぽどおもしろかったんだな。か~わい~いなぁ~!

「ひーちゃんどうしたの? 顔キショイよ?」

 聞いた? 聞きましたみなさん!? 「ひーちゃん顔マジ妻夫木聡」だって! お世辞だってわかっているけどうれしいよ、ありがとうっ! 俺が妻夫木聡ならおまえは……あ、だめだ、この子の美貌に当てはまる奴がいない。あぁ、それにしてもいい匂いだぁ。頭がくらくらするぅ癒されるぅ。これがアロマテラピーか……! この香りを瓶に詰めて常時持ち歩きたい。そんなことをすればただの変態なので、大人しく鼻から口から吸い込めるだけ体に取り入れておこう。はぁ……幸せだ、幸せだぁー! ここんとこずっとあのバカ猫に振り回されてただけに、体の隅々まで沁み渡るぜ!

「ひーちゃん、そーいえばずーっと気になってたんだけど……窓から人がめっちゃこっち見てる」

 言われた方を見て俺はギョッとした。そこには、般若の形相で窓にへばり付いているウザがいたからだ。

 もう這い上がってきたのか!? いつからそこにいたよ!? てゆーか無傷かよ! くそっ、なんて無駄に頑丈な奴……!

 そんな不死身なクソ猫は勢いよく戸を開けづかづかと部屋に入ってきた、って、おまえ何当然のように入ってきてんだよ! このラブラブ甘々な状況が見てわからんのか!? 本当に役に立たない目だな!

 そしてピタッと美柑の前に立ち止まり、顔のあちこちを吊りあげながらじ~っと至近距離で美柑を睨んできた。

「……ひろのかのじょ?」

「うん? そうだよ」

「へー……いつから?」

「えーと、大学一年の最初の頃からだから、二年は経ってるねっ」

「へー……」

 そう敵意むき出しの声と表情で質問しながら、それを涼しい顔で答える美柑の周りをまわった。ジロジロと値踏みでもするかのように頭のてっぺんからつま先まで見ていたが、ふと、奴は美柑の胸(推定Dカップ)に目が止まった。まるで珍しいものを見つけたようにかなりの至近距離で穴が開くほど見つめている。それだけでも俺は殴って蹴り飛ばしたい衝動に駆られたが、なんとあろうことか、奴はそれに両手を伸ばし鷲掴んだではないか。

 だあぁぁぁぁ! 何をやってんだテメェーッ! それは俺のだー! 突くな! さわんな! 揉むな! 埋まるなー!! 俺ですら触ったこともないのにぃー! 二年付き合っててまだチューすらしてねーのにぃー! てめぇ、まじブッ殺す! そして、そんなウザに対して「あははっ、くすぐったーい」と笑っている美柑にも衝撃だった。いくら相手が子供だからって、そんな卑猥なことされて平然としないでくれえぇぇぇ!

 今すぐ殴って蹴って遠くに投げ飛ばしたいが、あまりのショックのせいか体が動かず頭を振り乱すだけで、悲しいことに目の前で繰り広げられるパフパフショーを眺めていることしかできずにいる。なんか、腹まで触りだしてるし。いつまで触ってんだ! いい加減離れろ!

 数分後、散々触って満足したのかウザはやっと美柑のおっぱいから離れた。しばらく難しい顔で何かを考えるような仕草をして、尚も美柑のおっぱいを凝視しながら腑に落ちないとでも言いたげに一言。

「二つなんだね」

 一瞬反応が遅れてしまうほどの予想外の答えに、俺はまた衝撃を受けた。

 なんだその感想! さんざん好きなように触りまくった末の感想がそれか! それなのか!? 猫みたいにたくさんあるわけねーだろ! まな板ならともかく、さすがにあんなでかいのがそんなにあったら恐いわ!

「それはそうと。ねー、きみはひろのことがすきなの?」

 恐らく初めてなのであろう巨乳というものの興味に気を取られ、うっかり敵だと忘れてしまってたのだろう。気を取り直して、ウザは美柑を再度キッと睨みつけた。

 何とんちんかんなことをきいてやがるんだこいつ! 恋人同士だぞ俺達! 好きに決まってんだろ! このボケ!

「ん? うん、好きだけど?」

 ほら見ろ! 即答とまでいかなかったが、普通にイエスだっただろうが!

「ぼくのほうがすきだもん!」

 その答えに、負けじとウザは言い返した。

「私の方がもっと好きだよ」

 さらに美柑も言い返す。

「ぼくはもっともっとすきだもん!」

「私はもっともっともっと好きだよ」

「ぼくのほうがせかいいちすきだもん!」

「じゃあ、私は宇宙一!」

 子供らしくムキになってるウザに対して、持ち前のマイペースで俺への愛を表明する美柑に俺は感激の涙を流した。

 ありがとう美柑、俺も宇宙一君が好きだよ。でもさ、「じゃあ」ってなに? なに、その便乗しちゃいましたって感じ。

「じゃあさじゃあさっ! ひろのいいところいってみてよ!」

 まったく怯むことのない敵の態度にやや半泣きのウザにそう切り出され、美柑はくるりと俺の方を振り返った。まんまるのお目々でしばらくじーーっとめいいっぱい見つめてくれた後、ウザの方に向き直り自信満々にズバリこう言った。

「ツリ目!」

 美柑さん、もっと他にあるでしょ!? 俺たち何年の付き合いよ!? そしてツリ目は長所なのか!? ていうか、それはしばらく観察して考えないとわからないものなの!?

「……せいかい」

 えぇ~~!? 俺の長所ツリ目決定!?

「ツリめなのにまるめなのがまたイイあじだしてるよね」

「そうそう! ツリ目のくせに切れ長じゃないってところがいいよね」

「したしみやすさがあるよね」

「ほんと一重じゃなくてよかったよね!」

 おい、なに二人して俺のツリ目で盛り上がってんだよ! 褒められても喜んでいいか全くわかんねーよ! つーか、ちょいちょい悪口っぽい言い回しやめておくれよ美柑さん。悲しくなるよ。そして、一重ツリ目の人達に謝りなさい!

「ウザっていうの? 私、美柑っていうのーよろしくね~」

「みかん……おいしそう」

「よく言われる~」

 しかも、なんかいきなり仲良くなってるし。なんだよこの展開! さっきまでの険悪ムードは何だったんだよ! おまえらあっさりし過ぎだろ! あそこだけあるはずのない花が飛んでて和やかムードだし!

「もう、ひーちゃんってば、こんなかわいい居候できたんならもっと早く言ってよぉー」

 と、終いにゃ美柑は笑顔でウザを抱きしめた。俺には自分から抱きついたりしないくせに……。くそ~ウザ、そこ代われ! さっきのぱふぱふといい、ガキだからって調子に乗りやがって!

「へぇー、猫だったの? すごいねー!」

「うん、そうなのー。ひろのおかげでにんげんになれたのー」

「じゃあ、読み書きとか漢字とか教えてあげるねっ。私ウーちゃんの先生ね!」

 もう数分前のピリピリはいづこ。元々波長が合うのか、どんどん仲よくなってしまう二人に俺は付いていけずに茫然と立ち尽くした。久々のお家デートなのにいきなり一人ぼっちにされた俺は、その光景を恨めしげに見つめ、ぎりっ……と爪を噛んだ。

 くそぅ、俺の幸せタイムと美柑を返せー!

「ん? なんだろこ、れ……」

 早速ウザとお勉強タイムに突入していた美柑がふと、何かを見つけ固まった。それに、一旦怒りを鎮め、どうしたのか? と、手にとって凝視しているものを覗き込んで、俺も固まった。

 そ、それは、美柑に絶対ばれたくない俺のシークレットランキングベスト4の一つ――AVじゃねーかぁぁぁぁ! しかもよりにもよってタイトルも内容も一番卑猥なヤツ! しまった! もしや片付け忘れ!? マズイ……! これは非常にマズイ! どう言い訳すべきか……。

「あ! ダメじゃんひろ! またかたづけわすれているよ! ちゃんとしまわないと!」

 言うが早いか、ウザは素早く美柑からAVを取り上げ、なんと俺の隠し場所(タンスの一番下。美柑の目の前)を思いっきり全開にした。

 ぅおおおおおぉおいぃぃぃぃぃぃ!

 なにやってんだ、このすっとこどっこい! がばぁーっと開けんな! 上の服全部どかすな! 見事に丸見えじゃねーかぁー! しかもあっさり俺のだって言ってんじゃねーよ! せっかく、学部一エロいと謳われる、キング・オブ・エロこと助造に無理やり押し付けられたって言おうと思ったのに、もう何も言い訳ができなくなっちまったじゃねーかぁぁぁぁぁ!

「あ、あの……」

 大量に敷き詰められたAVを怖いくらいじ……っと見つめている美柑に、俺がやたら冷たい汗を垂れ流しまくって言葉に困っていると、すくっと立ちあがり、そのまますごい早さで出て行ってしまった。

 しばらく立ち尽くしていたが、すぐさまウザに掴みかかった。

「どーしてくれるんだよてめぇ! 引いちゃったじゃねーか確実に!」

「え? なにが?」

 しかし、ウザはまったくわかっておらず、それが余計腹正しかったが、同じくらい俺は焦っていた。

 なんてこった! どうしよう! いや、俺だって健康で元気な男だし、これぐらい観るのは普通なわけで……いやでも、あんなキレイに引きだし全面占領している状態、しかもあいうえお順に並べられていたのを目にしたら、どんなに心が広くてもさすがに引くよな。最悪幻滅されたかもしれない。まさかこんなことで、このあほのせいで俺たち終わってしまうのか!? 最悪だ! どうしてくれよう!? どうしてくれる!?

 何か解決策はないか思案したが、目の前のAVがもうどうすることも出来ないと訴えかけてきて、俺はその場にガクッと膝をついた。

 あぁ……きっと今日中にも俺のケータイに「別れましょ」メールが来るんだ。いや、それよりも「きもい」って一言送られてきたらどうしよう。きっと俺立ち直れねーよ。

 あぁっ…………!

 この人生始まって以来の危機と、デートぶち壊し及び、俺より先に美柑のおっぱいを触りまくった恨みと併せて、俺はウザをバキベキに殴り倒した後、一晩ベランダに逆さ吊りの刑に処した。それでも湯水のように湧き出る悲しみと怒りを、ウザに吐かせた美柑の胸の感触を妄想して紛らわせながら俺はシクシクと夜を明かしたのだった。


 翌日、俺の心配をよそに、美柑は大量のAVを持って家に現れた。

「ひーちゃんが好きそうなの、いっぱい借りてきたよ!」

 どうやらあの後、レンタルビデオ屋に直行してきたらしい。引かれてなかったことに対する安堵と、なんかいろいろつっこみたい気持ちでいっぱいで、ものすごく複雑だ。ものわかりいいのか天然なのかわからないが、とりあえずよかった。

 というわけで、これからも円満に愛を育んでいきたいと思います! 応援よろしく!

「そうだ! コレ借りにレジに行った時ね、私の顔見た途端「お姉さん、エッチだねぇ……えへえへ」って店員さんの鼻息と汗がすごかったんだよ!」

 ……これ返す時は俺が行こう。


《第2話 終》

【次回】

バイトするなら君とワーク

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