第二章 僕の夢の残滓。
「……」
なぜこうなったのか、僕には分からない。
《汝は選ばれた。》
「あの~、すみません。これ何かの間違えじゃないですか?」
恐る恐る口を開く。そして、思ったことを言葉にした。
《汝ら全てを覗き見た。その心の深遠まで。そして、汝は選ばれた。》
どうやら神さまは物分りが悪いらしい。
僕の言うことを分かってくれない。
「えっとですね、僕に夢なんてありません。だからこれは何かの間違えなんです。」
《真実である。これは啓示である。》
出た、神さまの必殺技、啓示。となるともう諦めるしかないらしい。
《汝、夢の形を掴むべし。汝自らの深遠へと沈む。》その言葉を聞いた途端、急な眠気が……。
「うわああああぁぁっ。なんでそんなもの僕に見せ付けてくるんだ。昔のことなんで思い出したくないんだ、僕は。」
今の僕は、"僕"を見ている。"僕"というのは、"過去の僕"のことだ。今、僕は、昔の"僕"の中にいる。なんか急に昔の自分を演じさせらることになった。僕は、"僕"になってはいるが、何を思っても、体を動かせない。動いてはいるが、自分の過去の記憶通りに、ただ過去を辿っているだけ。神さまはこう言っていた。
《過去を巡り、夢の残滓を集めよ。汝が自覚するまで幾度も巡る。》
夢を見つけないとこれは終わらない。
僕はただ、記憶を辿る。何度も何度もただ辿る。
今に辿り着き、始めに戻る。
それの繰り返しだ。
①物心ついてすぐ
僕は物静かな子供だったようだ。一日中何か、気になったものをずっと眺めていた。それを邪魔されると激しく怒った。当時から僕は気難しかったようだ。
②幼稚園
僕の周りには既に誰もいなかった。声をかけてきた他の園児の誘いに一切乗らなかったからだろう。
③小学校
僕の周りには引き続き誰もいなかった。僕から出ていた近寄りがたい雰囲気に誰もが気づいていたからだろう。だが、僕にはそんな気はなかった。誰かがいつか話しかけてきてくれると期待していた。
④中学校
僕の周りには当然誰もいなかった。僕は小学校の時といっしょだ。自分から動こうと思ったが、一度失敗しただけで諦めてしまった。
⑤高校
僕の周りには一人しかいなかった。足りない。僕に友だちなんて満足にできるもんじゃなかったんだ。他の人みたいに友だち何人もいない俺はだめなやつなんだ。後悔はしている、すぐ諦めて何もしようとしなかった自分に。
意地を張ってしまった。自分から話しかけない、相手から友だちになってくれることに拘ってしまった。
過去は変えられない。今見ているのに変えられない。夢も希望もありはしない。
もう我慢の限界だった。変えられない過去と現実を何度も見せられれば、そりゃ、誰でもそうなるだろう。そう、カンちゃんであっても……。ん、カンちゃん?そう思ったとき、神さまの声が再び聞こえてきた。
《汝の夢を形にする鍵、掴め。》
掴めって言われても……。僕は聞きたい。カンちゃんなら、こういうときどうする?




