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恋、一歩手前【完結】

 二次会行く? と、言う言葉に私は毎度のことのようにこう言うのだ。


「「もう眠たいし、明日の単位落とす訳にもいかないから行かない」」


 いつもなら、私の声だけだったはずのこの言葉。一つも間違えることなく、私の声と、低音の声が重なった。

 私は手前の彼と顔を見合わせれば、周りの人達はあまりのハモり具合に、声を出さずに笑っている。

 一人の男子が気をきかせているつもりなのか、「送ってやれよ」とそう言った。

 私は断るつもりだったのに、手前にいる彼はそうだなと言って立ち上がる。


「……言われなくてもそうするつもりだ。むしろ役得だ、この人がいなかったら俺の意志関係なく二次会に連れていかれてただろうし、それにこんな遅くに女性を一人で帰らせるほど、人に対して無関心ではないからな」


 と、夕波さんはそう言った。自己紹介の時のように愛想なんて全くない、淡々とした声だった。……まあ、私のせいで不機嫌な訳ではなさそうなのだけど。

 とりあえず、送ってくれるみたいなので素直に夕波さんの後をくっついて行く訳だけど、背後からヒューと口笛を吹き、冷やかしているような雰囲気を感じつつも気にもせずに私達は店から後にした。


 必要最低限な会話をしつつ、いつもの帰り道が長く感じていた時、やっと私が住んでいるマンションが見えてきた。その時だった、夕波さんは私の方へと振り返って、眼鏡の奥では目を細めるように笑いながら、彼はこう言った。

「お友達から始めませんか? ……俺達」

 と、今まで言われた告白よりもインパクトのある発言だった。

 私だって、告白をされたことがない訳じゃない。その時、当たり前だけど「好きです」と言われ、「お友達からで良いのでお願いします」とそう言われることが多い。けど、そう言った彼らは私に片想いを抱いている。……恋人関係になるのではないか? と、期待をしてないことはないんじゃないかって思う。

 申し訳ないけど、その彼らの申し出は断った、……ちゃんと理由を話して。


 だけど、夕波さんの提案は違う。お互いに恋愛感情を抱いていない、本当の友人スタートだ。恋愛に発展することもあれば、親友の関係でとどまる可能性だってある提案だから、断る理由なんてどこにもない。

 ……夕波さんに興味を抱いていたんだもの、断る理由なんてないんだから。


「……そうですね、お友達から始めましょうか。そのあとは、その時に考えることにしませんか?」

「そうですね」


 そんな会話をした四年後、あの合コンに参加したメンバーの中で、一番先に結婚することになるとは今の私達にはわからない話である。



 これで「恋、一歩手前」は完結です。読んでくださり、ありがとうございました。

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