失恋から始まる恋模様1
十年前、四歳年上だった私の幼馴染みは……塾の講師をしていた。
身長の低かった彼は、嘘みたいに高くなっていて。でも、時折浮かべるあの笑顔は……、十年前と全く変わっていなかった。
そんな彼が遠い存在になったような気がして、私は未だに話しかけることが出来ずにいた。……どうせ、覚えていないんだろうって諦めたから。
彼、樋川新一〈ひかわしんいち〉に対する……私、桐沢圭織〈きりさわかおり〉の初恋は、もう終わったことなのだから。
……私の親友、有理桜〈ゆうりさくら〉とキスしているところを見た時から、初恋の苦さを知り、終止符を打った。
◇◆◇◆◇◆
幸せそうに笑う、桜の姿を見るのは苦しくて。私は愛想笑いしか浮かべることが出来なくなっていた。
失恋ってここまで苦しいものなんだって、初めて知った。
そう私は考えながら図書室で、本で自分の顔を隠しながら涙を流していれば、急に現れた気配に驚き、思わず泣いているにも関わらず振り返ってしまう。
そこにいたのは同じクラスの前髪を長くし、顔を隠している外川優〈とかわゆう〉くんの姿があった。
――あっ、見られちゃった……。
と、そう考えたと同時に視界が暗くなった。何で、視界が暗くなったのか疑問を持ちつつも何故か涙が止まらなく、声を殺して泣き泣き続けていくうちに私の意識は遠退いていった。
眠りから覚め、ゆっくりと身体を起き上がらせれば私の隣には、優しい雰囲気をまとった外川くんが座っていた。
「……おはよう?」
と、そう言えば、外川くんは私の頭を撫でてこう言った。
「おはよう、……すっきりした? もう遅いし、家まで送っていくよ」
その時した会話が、外川くんと同じクラスになって初めてした会話だった。