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第二十九話

「大華軍か。良かろう。だが、その名前だと、棒の国の軍みたいに一瞬聞こえるな」


「いえ、大華帝国の人口よりも遥かに人数の多い軍を大華帝国の軍と思う人がいたらそれはそれで、話を聞いてみたく思います」


 各国から集めた兵士は、大華軍と言う名で、光とは別枠で運用されることになりました。

門下省の門閥貴族達が光軍と同等の扱いに難色を示したのもありますが、分けて動かせるようにしたほうがいろいろやりやすいだろうと言うことになったんですよね。


 大華軍とすることで、光軍の中からも大華軍に出向させることも出来るようになりました。

兵士を借り受けることが出来るにしても、指揮官や士官は流石に光から出す必要があります。

元の国に忠誠を向けた指揮官にとなると、有事にわざと防衛をしないでとする等の指示を出す国がでてくるなどの心配もありますし。

長期的に見れば指示を出した国にも損になる場合もあるでしょうが、そこまで考えて動く人達ばかりならば、そもそも戦争なんてやらないほうが利益大きい状態でも戦うなんて現象は発生しなくなるでしょうからね。


 光内部にもそう言ったことを行う人がいないとも限りませんが、他国の軍人よりは光の軍人のほうがまだしも信用できるだろうという期待ですね。


 それでも光軍と分けたのは、光の軍としてよりも、大華世界のための軍としたほうが兵士達の士気は多少は上がるのではないかと言う期待です。

大華世界のためという大義名分ならば、光以外で産まれた人達でも自分達の故郷を守ることにもつながると考えてもらえるのではないか? と考えるわけです。

給料分のことしかしない兵士も多いでしょうが、逆にいえば給料分のことをしてくれれば十分なわけで。


 他国の利益のためと思うと給料分未満のことすらしないなんて気持ちになってもおかしくありません。

自分の故郷や家族を守ることにつながるとなれば、それなりの気持ちを持ってもらうのと、そこから退役した人達が、そこの国の民としての意識よりも大華世界の民としての意識をその故郷で広めてくれないかと言う期待ですね。


 そんな簡単に行かないでしょうし、民衆がどう思おうと指導者の決定に影響がでるとも限りませんが、少しずつ大華内部での国の別の意味をなくしていきたいと考えるんですよね。


 名前的に兄帝が言ったみたいに大華帝国の軍と思う人が出てくる可能性がないとは言いませんが、大華帝国なんて、ほとんど形式しか残っていない国ですし、大華軍に関係ある大華帝国関係者なんてそれこそ僕一人ぐらいですからね。

本当に思い込むことが出来る人がいるなら、それはそれでどういう思考をしているのか直接会って話を聞いてみたいです。



「父上」


 瑠が僕のことを父上と呼んでくれるようになりました。

自分の息子に父と呼ばれてみると、改めて父親になった実感と言うものが湧いてきますね。

僕自身は、父に父上と直接呼んだことは幼い頃にはないだろうなとは思います。

実際に会うことがあったのか? と言うこともありますが、父は僕が産まれた時点で皇帝ですから父上と呼ぶようにはされてない筈なんですよね。

せいぜい、主上と呼ばせるでしょう。


 僕自身、名目上は大華帝国の皇帝ではありますが、そんなことは本人ですら普段は忘れてますし、人口百人の国の皇帝だから、父上と呼んでもらえないなんて悲しすぎます。

流石に、祭祀を行う際には皇帝として振る舞う必要はあるでしょうが、逆に言えばそれだけです。

将来は、瑠にも大華帝国皇帝としての祭祀は行ってもらうことになるのでしょうが、そんなことを今から気にすることもないでしょうね。


 大華帝国皇帝の祭祀ですが、帝都壊滅の時の犠牲者に対する慰霊の儀式も行われているんですね。

現在危険すぎるために、冒険者組合の段持ち冒険者しか入れなくなっている旧帝都ですが、大華帝国の島からでも慰霊の儀式が行われていたとのことです。

ですが、実際には遠く離れた場所で行うことですのでかなりおざなりになっており、実際に入れる人にやってもらえないか? と言うことで僕が段持ち冒険者であるからには、ちょうど光に禅譲するなら僕がちょうど良かったという事情もあったとのことです。


 なぜ、兄帝に直接禅譲ではなく、僕になんだと迷惑には思いましたが、旧帝都に入れる光上層部は、確かに僕だけです。

そういう事情があるなら、旧帝都での祭祀は特に心を入れて行わないといけませんね。

大華帝国島遷以来の怨念を慰霊するとなると……


「棒さん、そこまで心配する必要はありませんよ」


「え?」


「冒険者組合だって、それなりに除霊はやっています。組合本部にいる職員の重要な仕事の一つですよ」


「あ、そういえばそうでしたね」


 思い立ったが吉日と、旧帝都の慰霊について冒険者組合の人との話し合いの席を設けました。

そこで聞いたのは、旧帝都には組合本部があるんだから除霊ぐらいは普通にやっていると言う話。

そりゃまあ、慰霊はともかく、そのまま放置はあり得ませんでしたね。


 それでも対処療法的除霊よりも、慰霊の祭祀を行うこと自体も行ったほうが良いだろうと準備を進めます。

と言っても、日取り等を占いで決めて行くという形式的なものだけですけどね。

別に瞬間移動ですぐに行ける場所ですし、やるだけならすぐにでも出来ますが、光の国家としての式典もかねるということですから。

光が大華帝国帝都を支配下におくことで、大華の中心は光であると見せつける必要性もあるわけです。


 儀式だけするのも意味がありませんので、魔法の複雑な構成の準備もしていきます。

流石に一度だけの儀式で、滅びた帝都を安全にすることは不可能ですが、少しでも意味があるものにしたいですよね。



……それだけだったはずなのですが、旧帝都に巣食っていた怨霊達も皇帝に見捨てられたと言う思いが強かったらしく、大華帝国皇帝としての僕の慰霊魔法は自分から受け入れたがる怨霊が多かったんですよね。

怨霊以外も危険な存在はいますので、すぐに旧帝都を開放するわけにはいきませんが、旧帝都付近で時折寒気がするという風物詩が消滅する程度の効果は出てしまいました。


 予想外の成果を上げはしましたが、大華帝国の皇帝と言う権威が復活することにつながってしまうことがちょっと懸念材料ですね。

光の皇弟である僕の場合はともかくとして、子孫の代に大華帝国と言うものが旗頭になりかねないともなると……

瑠に大変な思いをさせてしまうことになりかねません。


 ま、旧帝都の怨霊がかなり減少しただけでも、御の字と考えたほうがよさそうですね。

それ以外のことは、今後一つ一つ解決していくしかないでしょう。

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