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第一話

 僕、朱棒は恐怖していた。

 杜子春伝の講談を聞きでお金を持っていてもいつかは使い切るということを学んだ。

 僕達三十を超えた皇子達は、いつそのように処分されてもおかしくないと噂で聞いている。

 大事にされるのは、せいぜい十男ぐらいまで。

 そこから下は、いてもいなくても一緒だと。


 それならばと冒険者になることを目指すことにした。

 冒険者ならば、身分等関係なく成功を目指すことが出来る筈だから。

 もっとも、冒険者は実力がなければ話にならないみたいだから、しっかり修行をしないとね。


 修行の場としては、僕は極めて有利な状態だ。

 兄達の授業に参加する自由があるからだ。

 邪魔をするようでは追い出されるかもしれないけど、ついでに教えてもらう分には、最高の環境と言えるだろう。


 まずは、文字を覚えることになる。

 同じ発音でも、意味ごとに文字が違うし、同じような発音でも音の上げ下げで別の意味になったりする。

 これを全部覚えるのは大変だけど、普段使う文字はある程度限られるようだ。

 それでもかなりの数を覚えないといけないし、普段使う文字だけでは済まないことも多いはず。

 特に冒険者の場合は魔法を使う人もいるようだから、そうなると構成を組むための基本文字となる亀甲文字等も覚えないといけないようで、負担はかなり多いみたいね。

 それもあって、冒険者でも魔法を使える人はそこまで多くないみたい。


 魔法も文字を発音しないで使うこと自体は可能みたいだけど、頭の中で亀甲文字の構成を高次元に組みたてて使わないといけないからより難しくなるみたいね。

 呪文を使う場合は、頭の中では立体的に構成を組み立てて、呪文を唱えることで高次元にするんだそうだ。

 だから、ある意味では、頭の中で高次元の構成を組み立てられるのであれば、呪文を使うことでさらなる高次元に持っていけるというメリットもあるみたいね。


 とはいえ、僕にはまだ難しすぎるから、そういう概念があるということのみを覚えただけだけど。


 剣術などの武器の使い方も覚えようとしたけど、まずは体力を養わないと意味がないと言われて、基礎鍛錬を行っているよ。

 近衛兵達の朝の走りこみに混ざって参加させてもらったり、受身の取り方を教えてもらったりだね。


 もっとも、近衛兵達は鎧を着て走っているのに対して、僕は普通の服だから遥かに楽な状態。

 それでも、ついて行くのがやっとなんだから、近衛兵の人達がどれだけすごいかわかるということだよ。

 冒険者になるとなったら、当然鎧を着て走れる位にならないといけないわけだし、尊敬しちゃうな。


 受身については、コツを教えてもらって結構いろいろできるようになっている。

 それでも自分の命を最終的に守る受身を完璧にしないことには、戦うにも危険すぎるみたい。

 まずは基礎を積み重ねないことには、強くなれないということだし、頑張るぞ。


 ただ気になるのは、他の同世代の皇子達は勉強も鍛錬もしようとしないこと。

 遊んで過ごすのには困らないだけのおもちゃや相手はいるけど、自立出来るようにならないと後が怖いんじゃないかな?

 まあ、僕と彼らが望むものは別なんだろうけど、ちょっと心配になっちゃうな。



 千里の道も一歩からということで、毎日基礎を身につけるために頑張っている。

 最近では、文字を組み合わせて意味をもたせる言葉もだんだんと覚え始めた。

 簡単な言葉しかまだ分かってはいないけど、言葉の組み合わせを増やすことで飛躍的に多くのことが分かってきた気がする。

 あくまで気がするだけで、実際には大したことないんだろうけど、毎日いろんなことを覚えられるのは楽しいな。

 先生達も、多少は教え甲斐を感じてくれるのか、僕に質問させてくれることも増えてきた。

 書いてあることだけを見るんじゃわからないことも、知識がたくさんある先生に教えてもらえればわかることも多い。

 僕が皇子でよかったよ。


 鍛錬のほうは、相変わらず体力をつけるようにと武器を持たせてもらえていない。

 最近では走りこみも何とかついて行くから、ちゃんと付いていくくらいに改善し始めた。

 もっとも、近衛兵達は鎧を着ているんだから、まだまだ雲泥の差だけどね。

 それでも、少しは成長しているんだと思うと、嬉しくなるよ。


 腕立て伏せや重いものを持っての移動等もやらせてもらえるようになった。

 最初からこんなことやっていたら、とても出来ずに根を上げていたと思うし、徐々にすることを増やして身体を慣れさせてくれているんだなと思う。

 最初は、怪我するようなことはやらせてもらえなかったけど、最近は傷だらけになるようになった。

 勿論、大きなけががないように配慮されているんだとは思うけど、小さな傷程度じゃ誰も何も言わない。

 僕自身強くなりたいから、こうやって怪我をすることに異存はないし。


 ただ、侍従達に傷だらけの身体を見られて、慌てて侍医を呼びだされることはあるね。

 侍医の人も初めは仰天していたけど、だんだんと慣れて来て、


「古い傷はちゃんと癒えているようですな。下手に魔法で治すよりも、自然に治したほうが回復力が高まりまする。常に魔法で治せるとは限りませんし、緊急に治療が必要な傷もございません。今回はこのままに致しましょう」


「診ていただいて、ありがとうございました。」


 なんてことが日常になっている。

 魔法を使ってもらえると痛みがすぐになくなるのは良いんだけど、自分の感覚が良く分からなくなるんだよね。

 徐々に傷が治ることで痛みがなくなるほうが、身体が治ろうとしているんだと実感できて、僕は好き。

 それに、自然に傷が治った場所は、魔法で治した場所よりも次は怪我がしにくくなる気がする。

 僕が勝手に感じているだけなんだろうけど、少なくとも怪我をしないようにするにはどうしたらいいかと、身体が動くようになるから、意味はあるんだろうね。

 すぐに怪我が治ると思えば、怪我しないように動くなんてしないと思うもん。



 そんな日常がずっと続くと思っていた……なんてことが僕にもあった。

 でも、そんな当たり前と思っていることは結構簡単に崩れ去っちゃうんだよね。

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