第十八話
宰相府でのお手伝いの仕事量が急に増えた。
科挙のまねごとをやったことで、形式が整ったと判断されたのかな?
おかげで、冒険に行きたくても行く時間がなくなっちゃって困ってる。
勿論、仕事を任されるのは嬉しいし、僕が知っていることを活かせるのは喜びを感じる。
役に立つと見せることが出来れば、宮廷から追い出される可能性も、若干は減るだろうし。
お手伝いの給料がでてくれれば、それに越したことはないけど流石に贅沢かな?
……あれ? 給料出るの?
しかも、進士並の金額の報酬がでるって。
良いのかな?
まあ、貰えるものは貰っておくけど、冒険者の報酬なんて目じゃない額をもらえるとは思わなかったな。
もっとも、皇族としての生活ではなく別家を立てる形になった。
宮城の中とはいえ、皇子達が生活する区画とは別の場所。
他の皇子のいる区画に妻女を入れる事での悪影響とかもあるのかな?
その代わりに進士並の報酬を渡してくれると言うならありがたいや。
ここまでしてくれるなら、無理に冒険者目指すこともなかったのかな?
でも、別家を立てることが許されたのは、二十番目以降の兄弟では僕ぐらいであることを考えると、特別扱いしてくれているということでもあるのかな?
結構歳を取っているのに、何もしないで宮廷にいるだけの兄達を見ると、毎日が暇じゃないのかな? とか思っちゃう。
でも、最低限の生活以上のことはできないことを考えれば、僕は恵まれているよね。
僕も幸さんも、特に贅沢に興味はないけど、必要と思える人づき合いをするにはお金がかかるし、仕事をする上では、接待をすると言ったことは当然必要になる。
皇子である強みからか賄賂を渡さなくても仕事はしてもらえるけど、よくやってくれた人にはお礼を包む必要はあるだろうし、宴会等に参加したり主催したりする必要性もあるから、どうしたってお金は必要なんだよね。
あんまり無駄遣いするのはどうかと思うけど、お金がある人はあるなりに、出費しないといけないってことは実感するね。
逆に賄賂を渡してこようとしてくる人もいる。
僕みたいな皇子とはいえ、三十三番目なんて微妙な相手に賄賂なんか渡してどうするんだろう? と思わなくもないけど、報告書の添削に手心加えてほしいとかいろいろ理由はあるんだろうね。
流石に、お金をくれたからって手心を加える気はないし、宰相様に賄賂の額や一緒につけられた文は全部提出している。
正直、賄賂なんて貰っても使い道ないし、賄賂でなんとかなると思っている人がまともな仕事を出来るとも思えないしね。
かと言って受け取らないのも無理なんだよね。
僕は受け取る気ないし、幸だって受け取ったりはしない。
でも、宮廷から派遣されている使用人達が受け取りましたと持ってきちゃう。
受け取るのを禁止したくても、使用人達と渡してくる人達じゃ身分が違うから、基本使用人側に拒否権がない。
主人に受け取るなと言われていると言ったところで、身分の低い者が高い者に対して口答えするだけで、犯罪扱いされかねない。
だから、賄賂を受け取ったから叱責するわけにもいかないんだよね。
仕方ないから、宰相様に渡して宰相府の予備費にしてもらっているけど、仮にも結構大きな組織の予備費に出来ちゃう額が賄賂で集まること自体にあきれちゃう。
このこと自体は、兄帝にも報告してあるから、綱紀粛正のための方策を考えるようにって指示が来ちゃったね。
賄賂を渡してきた額を名前付きで公表することを考えたけど、これは宰相様に却下された。
そんなことやると、更に賄賂が増えかねないって。
他人よりも多く渡しているって示したほうが見栄を張れるから、むしろ競争になりかねないって。
僕にはよくわからない思考だけど、言われてみればその可能性は十分にあり得るだけに、自重しておいた。
ならばと、
「見栄を張りたいと言うならば、慈善事業を奨励しそれを競わせればいかがでしょう? どうせ無駄金を使わせるぐらいならば、貧しい人や不幸な人が恩恵を受けられるようにすればよいのです。評判が良くなれば、多少の失敗は挽回できるようになりますし、どれだけのことを出来るかで見栄の張り合いともなるでしょう。そうして金を使わせることで、賄賂に回す金も使わせる。いかがでしょうか」
「そう簡単には行きますまいが……それで、貧民や孤児が暮らしやすくなるのであれば、多少は治安が良くなりましょう。陛下に建白させていただきます」
何とか採用されるみたい。
まあ、賄賂は自分が有利になるようにやるんだから、慈善事業を大々的にやれば自分の利益になると言うのであれば、積極的にやる人も多いと思うんだよね。
やらない善よりやる偽善。
少しでもマシになる人が増えれば、綱紀粛正の役に立たなくても良いとすら思ってはいる。
もっとも、綱紀粛正の役に立たないならまた別の方策を考えろと言われてしまうだろうから、うまくいってほしいのも本音だけどね。
僕はこの時考えていたのはこの程度のことだった。
まさか、思った以上のことが起こるとは考えてもいなかったんだよね。
「救護院の入居者が足りないだと?」
いやあまさか、慈善事業を競わせた結果、救護施設が一度にたくさんできてしまって貧しい人に入ってもらうために競い合うなんて馬鹿な状態になっているんだよね。
そのための職員もそれなりの値段で雇うために、それでお金を持った人がお金を使うことで、更にお金を得る人がでて、そのお金を使って新たなことをするようになり……という、金は天下の回りものって故事成語通りのことが発生しちゃったんだよね。
お金を持つ人が増えたことで、多少物価が上がってはいるんだけど、それ以上に高く売れるならと売りに来てくれる人がでてある程度で安定する。
結果的にだけど、光の税収が増えそうなんだよね。
意外と、慈善事業競わせるって国のためになるんだなあって言うのが、今回の本音。
そして、徳により国を豊かにすることが出来ると示したことで、兄帝の評価が国の内外で急上昇しているって話。
他の大華八帝もまねをしようとする国も出ているんだとか。
国が豊かになって評判が良くなるなら、そんなに良いこともないだろうし。
貧乏人争奪戦なんて言う意味不明なことが起きている以外は、すごくうまくいってる。
綱紀粛正の効果は不明だけど、兄帝からおほめの言葉をいただけちゃったよ。
結果が良ければすべて良しだよね。
ちょっと予想外のことが起きちゃったのは、僕自身……まあ、良しとしておこうか。