第十七話
「……というわけなんだけど、どうかな?」
「朱様が私の夫ですか?」
「うん、僕としては亀さんのことを女の子としてかわいいと思っているし、亀さんとは離れたくないし」
「え? そう思われておられたのですか?」
あれ? 亀さんが赤面している。
もしかして、僕がそういう対象だと考えたこともなかったのかな?
まあ生まれの種族が違うんだから仕方ないけど、ちょっとショックだな。
仮にも師匠に襲われることあったぐらいだから、男性ってそういうものだと思っていてもおかしくないと思うのに。
あ、僕が子供だからというのもあったのかな?
一応成人したとはいえ、身体は成長途上なのも間違いないし。
「亀さんが嫌というなら、残念だけど諦める。亀さんには亀さんの人生があるんだし」
「いえ、房中術の相手として考えたことがなかっただけですので、一緒にいたいとは思いますし、好きか嫌いかと言われれば勿論好きなんですが……朱様が、私の夫ですか」
前向きに考えてくれてはいるようだから、ひとまずは安堵かな。
でもまあ確かに、僕も房中術のことはまるで考えてなかったや。
仙人が房中術の結果、子供を為すという話は聞いたことないから、そういうのもあって宰相様は僕が亀さんとの婚姻と言う話に賛成なのかな?
ただでさえ多すぎる皇族がこれ以上増えるとなると、お金を管理する立場の宰相様には頭が痛いだろうし。
でもこの機会に亀さんとの関係が一歩進むのであれば、僕にとって悪い話じゃないし、良いほうに受けとっておこうっと。
「不束者ですが、よろしくおねがいいたします」
長く考えたうえで亀さんは了承してくれた。
「宰相様、亀さんも了承してくれたから、婚姻の話進めてくれませんか?」
「おお、納彩[いわゆる求婚の申し込み]が無事決まりましたか。では、祝言の日取りを整えさせていただきます。幸様は亀の生まれということで、問名[女子の名前と生年月日を記した紙を渡す儀式]は難しいかと思いますが、納吉[結婚について占うこと]からは、通常通りにお進めします」
「その辺の儀式関係は、私もよくわかってないのでよろしくお願いします」
「殿下、皇室は祭祀を行うものですぞ。もう少し自覚を持っていただきたい」
「すみません」
自分には縁がないと思っていたから、調べたことなかったんだよね。
でも確かに、皇室は祭祀を司るのがかなり大きな要素を占めているんだよね。
特に氏神様を大事にしないといけないんだよね。
氏神様を大事にすることを怠ると、作物が凶作になるぐらいなら良いほうで、最悪邪神になってしまって国を滅ぼすともいわれている。
実際、大華帝国の帝都に起きた天変地異は大華帝国の氏神様への祭祀を怠ったことで、邪神化した氏神様により起こされたなんて言う話もあるぐらいだもん。
そう考えると、皇帝の最大の務めは、先祖代々続く氏神様を祭ることとも言えるんだよね。
その務めを僕は放棄していたわけで、皇族としては失格だったかもしれない。
皇族でありつづけることが出来るか微妙だからこそだけど、それで氏神様が怒ったとなったら冒険で稼いだお金も全部没収されかねないなあ。
氏神様も大事にしようっと。
占いの結果も大いに良い結果だったし、亀さんとの婚姻を妨害するものはなくなった。
まあ、こういう占いは事前に細工していい結果になるようにするとは言うけどね。
占いの結果、せっかくうまくいきかけていた婚姻が壊れて、よろしい戦争だ! なんてなっちゃ困るし、必要な演出ってものだと思う。
清期[占いで決まった結婚の日取りを妻の実家に伝える儀式]と親迎[新婦を妻の実家に迎えに行く儀式]の代行は、冒険者組合がやってくれた。
組合員も一応は、大華帝国の組織だけに形式上は、大華帝国からの腰入れって名目に。
本島にも連絡して、大華帝国皇族の断絶した家系に形式上入れることになった。
まあ、亀さんが人の生まれじゃないのは周知の事実だけど、形式上だけでも皇族出身者としたほうが通りがいいと言うことみたいね。
大華帝国には権威はともかく、力は皆無でちょうどいい存在だったというのも大きいみたいだけど。
氏神様へのおうかがいを立てる以上、こういう形式も大事なんだってさ。
「幸さん、これからもよろしくね」
「ええ、よろしくお願いいたします、棒様」
一応公式の場ではちゃんとした口調で話さないといけないと言っても、夫婦の間ではその辺はね。
房中術も一応やっては見た。
でも、精気を漏らさぬようにするのって難しいね。
陰と陽がうまく交わり合って養生とすると言っても、なかなかうまくいかないや。
でも、幸さんが満足してくれたし、僕も幸せな気持ちになれたから良いや。
翌朝からは、鍛錬を再開した。
昨夜の乱れた幸さんを思い出すと、ちょっとにやけてしまうけど、その心の隙を見つけたのか、容赦なく攻撃された。
まあ、鍛錬なんだから、遠慮なくやってくれたほうがいいんだよね。
実際、僕と鍛錬してくれる武人は僕が皇族だからか手を抜いてきてまともに対戦してくれない。
切磋琢磨して頑張りたいのに残念だよね。
昼間は宰相府で、文官になるためのお勉強。
もっとも、それなりに報告書を見てきたこともあって、実務も手伝わせてもらっている。
報告書のチェックや、問題のありそうな報告書についての詳細調査の指示、どんなことをすべきかの提案等いろいろやらせてもらえているよ。
もっとも、最終決断するのは宰相様だからこそだって言うのは、分かってる。
僕みたいな皇族ってだけで科挙も受けていない若造が、決定なんてすること出来ないよね。
一応、進士科の科挙の問題も見せてもらって受けはしたけど、成績は教えてもらえていない。
きっと形だけ受けたことにして、成績はどうでもいいってことだったんだろうね。
殿試のまねごともさせてもらえたけど、兄上は複雑そうな顔をしていたな。
家業のお手伝いと夫婦としての暮らし、いろいろはじまって大変だよ。