第十六話
「私に指名依頼と言うから何かと思いましたが、朱様、人の国の皇族だったのですか!」
僕が宮廷から出るなと言われてしまっているので、亀さんに使者を出してほしいとお願いしたんだよね。
連絡先としては、冒険者組合経由が一番だろうとお願いしたら、光の皇族からの指名依頼となってしまったようなんだよね。
亀さんも段持ち冒険者だから、指名依頼が入る可能性は十分にあるんだよね。
そして、亀さんは僕と一緒にいろんな宮廷から指名依頼を受けてきたから、今回もその一つ位にしか思わなかったんだってさ。
光の宮廷からは一度もなかったけど、皇族が大勢いる国だと言うのは当然知ってて、その一人が暇つぶしに呼びだしたと思ったら、その相手が僕だったということみたい。
冒険者組合を通しての依頼で、身元がはっきりしない相手と言うことはまずないし、多少疑わしいなら説明されるだろうしね。
でも、連絡してほしいが指名依頼になるとは、どんな誤解が間に挟まったんだろうね。
こうして会って話すほうが早いから、歓迎していい状況なんだけど。
「うん、黙っていてごめんね。一応みだりに言うものじゃないかと思っていてさ」
「それはそうでしょうね。今の朱様に限ってはないでしょうけど、皇族の子供が市井に出ていて普段から自分が皇族だなんて言っていたら、身代金誘拐の対象にしてほしいと要請しているに等しいでしょうからね。賢明な判断だったと思いますよ」
あ、そうか。
言われてみて気付いたけど、確かにその通りだね。
そこまで理由を考えることなかったけど、結果的に僥倖だったのかもしれない。
まあ、人の運の良さ悪さは一定であるというし、上の兄弟に生まれなかった運の悪さを今回の運の良さで補ったという感じかな?
皇族に生まれたと言うだけでも、かなりの幸運には違いないとは思うけどね。
「それで私と連絡を取りたかったとは、どのような用があられたのでしょうか?」
「いや、僕が冒険者をやっていることを周囲には言ってなかったんだよね。ただそれがこの前の新年の祝賀会で知り合いの道士様の口から伝えられて、父上から宮廷を出ること禁止されちゃってさ。暫く依頼を受けられそうにないんだよね。そのことの説明と、今後どうするかを話し合いたかったんだ」
「冒険に行けないこと自体は、特に問題はありません。それなりに蓄えも出来ましたので、暫く生活することは出来るでしょう。ただ、今後朱様と離れて生活するとなるのは嫌ですね」
え? 僕と一緒に暮らしたいってこと?
そうか、僕が亀さんを好ましく思っていたことは一方通行じゃなかったんだ。
「せっかく、いろいろ修行しあえていたのにそれが止まってしまいます。私が助言を聞けなくなるのも悲しいですが、せっかく伸びておられる朱様の鍛錬が止まってしまうのが悲しいです」
……ごめん、僕の独りよがりだったみたい。
考えてみれば、亀さんは元が人じゃないから、男女が一緒に生活=婚姻という発想にならなくてもおかしくないんだよね。
それを僕だけ勝手に暴走しちゃっていたというのは、ちょっと反省しなきゃだ。
実際、鍛錬は一日やらないと結構体感的にわかるし、宰相府で修行するとなっても、鍛錬はするつもりでいた。
その際に亀さんが相手になってくれると心強いのも確かだけど……
「あれ? 暗い顔になられてしまってどうなされたのですか? もしかして修行は嫌でしたか?」
「いやいや、亀さんと修行出来るのは楽しいからやりたいよ。うん」
これで一緒に過ごせる接点までなくなるのは避けないとね。
でも、宮廷に亀さんに来てもらうとして、どういう名目にすればいいんだろう?
亀さんは少なくとも卵とはいえ仙人だから、仙人が宮廷にいる利点でも考えて話したほうがいいのかな?
「仙人様を妻にするおつもりですか?」
「えっと、そこまで話が進むのですか?」
宰相様に相談してみたらいきなり話が進み過ぎ、って返答されちゃった。
勿論希望を言えば将来、って考えたことがないとは言わないけど、人の僕と仙人の彼女じゃ流れる時間が違うからね。
……あ、そうか。
僕も仙人になれば、同じ時間の流れを過ごすことは出来るのか。
「宮中に女性を入れるとなると、妻ということになりましょう。殿下の場合は、分かっておられるとは思いますが、簡単につまなどは決められぬお方になりますが、仙人様となれば、話は大きく変わります。仙人様のご加護が光に得られるというのであれば、喜ばしいことではありますし、他国や大貴族にとっても、殿下を婿にと望みたくとも、仙人様を妻にすると言うことであれば、断念せざるを得ないでしょうからね。私見を言わせてもらえれば、そうしていただけるのであれば助かります」
ううん、妻かあ。
亀さんがどう思ってくれるかだよね。
僕としては、宰相様がむしろそうしてもらったほうが助かると言ってくれるのは嬉しいんだけどね。
でもいきなり妻と言われても、何をやれば良いのかわかんないや。
でも夫婦になるとなると、やっぱり同じ時間を生きたいと思うし、不老不死と言わないまでも不老長寿になれる構成を研究しないといけないのかな?
今度仙人様になるにはどうすればいいのかも調べてみようっと。
宮廷を出る許可が得られれば旧帝都にも行けるし、いろいろ調べられるよね。