第十五話
新年の祝賀に参加することになった。
やっぱり今まで僕が不参加でも問題なかったのは子供だからという扱いだったみたい。
成人したからには、参加しないといけないみたいだね。
まあ、普段外で冒険しているのも気付かれているのかなあ?
外出していること自体はばれているとは思うし、鍛えていることは隠してもいなかったからね。
第一他の同年代の兄弟がふくよかなのに、僕は割と鍛えていたことで筋肉質になっていた時点で目立ってはいただろうし。
いくら、僕が周りに関心を持たずにいたからって、周りも僕に関心を持たないとは限らないよね。
曲がりなりにも皇族と言うことで、僕たち兄弟も黄色の服を用意しては貰ったけど、割と黒っぽい黄色なのはやっぱり、微妙な存在だと言うことをあらわしているのかもしれないな。
まあ、服に負けてもみっともないという配慮かもしれないけどね。
新年の祝賀だけに、道士様も呼ばれている。
中には僕が研究の助言をしたことのある道士様もいるみたいで……
「朱殿、なぜこの場に……黄色の服とはまさか?」
「ええ、私、先帝陛下の三十三男にあたります。このままいても宮廷を追い出されたら生活できないだろうと考えて、冒険者をやっております」
「いや、貴殿を追い出すなんてしたら、光は大華中から笑い物になりますぞ」
そうなのかな?
宮廷の庇護が長く続いてくれるほうが、路頭に迷う可能性がなくなる分、僕的にはありがたいから良いんだけどね。
この出会いを機にいろいろな人に紹介してもらえる僕。
出会いが多いほうが、いろいろ役に立つので積極的に交友を広めていく。
もっとも、冒険者としてではなく、皇族としてだからちょっと弱いけどね。
ただでさえ三十三なんという微妙な立場なんだし、宮廷にほとんどいないような僕じゃつきあっても先方には利益ないだろうしね。
ただ、道士様と親しく話していたのが良かったみたいで、いろいろな話を振ってもらえるのが助かるね。
僕自身に価値はなくても、道士様の力を借りたい人にとっては、ちょうどいい踏み台なのかもしれないね。
そんな感じにいろいろな話をしている時に、父上がそばに来られた。
「お主は誰であるか?」
……父上、いくらなんでもそれは酷いです。
いや、こうなるとは思っていたけどね。
物ごころついて以来、父上と言葉を交わした記憶はないし、ろくに宮廷にもいなかったからね。
「えっと、陛下の三十三男であられる棒様であられる筈なのですが……なぜに武人のような身体つきなのですか?」
陛下のお付きの宦官の人が僕を紹介してくれると思ったら、疑問形にされちゃった。
えっと、そんなにおかしいのかな?
「間違いなく棒ですよ。何か、問題がありますでしょうか?」
「いえ、棒様が小さいころからいろいろ鍛えられていたのは知っておりましたが、はっきり言ってここまでとは思いもしませんでした。申し訳ございません」
「ふむ、朕の息子であるのか。見慣れぬ故、どこかの武人が迷い込んだのかと思ったのだが。しかし、これだけの身体付きの息子がいるとは存外の喜びである。大儀だ」
何か父上一人で喜ばれているよ。
まあ、それなりに鍛えた甲斐があったのかな。
そんなことをやっていた時に、道士様が近付いてこられた。
「田道士、どうなされました?」
「いえ、朱棒殿には、以前私の研究を手伝っていただいたことがありましてな。それで、お父上とはどんな会話を為されているのかと、興味を持った次第」
「棒、研究を手伝ったとはどういうことだ?」
「魔法の構成について助言を致しました」
「構成について助言?」
父上は不思議がられた。
まあ、僕の顔立ちすら知らなかったんだから、魔法が使えることは当然知らないだろうしね。
周りも驚いているところをすると、僕が冒険者をやっていることはばれてなかったのかな?
「まさかと思うが、お主達、自分の国の皇族が段持ち冒険者であることを知らなかったのか?」
「段持ち? 誰がです?」
「ここにおられる朱棒殿は、若いながらも初段になられた冒険者ですからな」
「はああああああ??」
父上の側近の人達が大声で叫んだ。
なんだ。僕が冒険者やっていることはばれてなかったんだ。
ま、今回でばれちゃったけどね。
「棒、本当なのか?」
「ええ、これが冒険者組合の手形になります」
別に今は持ち歩く必要性はなかったんだけど、何気なく持ち歩いていた手形を父や父の側近たちに見せた。
結果、道士様がいい加減なことを言っていないと父上や側近たちもわかってくれたんだけど……
「棒、暫く宮廷から許可なく出ることを禁ずる。沙汰を出すまで待て」
父上に言われちゃった。
兄帝も呼ばれて駆けつけてきたけれど、話を聞いて絶句していた。
そして何かを確信したかのように聞かれた。
「まさかと思うが、文官の部屋に忍び込んだことはないだろうな?」
ああ、ばれちゃったか。
確かに注釈の文章いろいろ書いてたもんね。
手で書いているものだけに僕の癖とか残っているし、見比べられたらわかっちゃうと思うし素直に認めておいたほうがよさそうだね。
「はい、間違っていると思うことについて、注釈の文書を書いておいておきました。単純な計算間違いや、実態と異なることについては無視できなかったのです」
「……お前か、お前だったのか。仙人様が我が国の状況を見かねて助力してくださっている等と言う噂になっていたのだが。実態を知っているところをすると、そこに行ってもいたということであろうな。どれだけ幼いころから宮廷を勝手に出ていたのだか。そんなに、この宮廷はお前にとって狭いか?」
別に狭いから云々で出かけていたわけじゃないんだけどね。
誤解されちゃまずいから事実を言わないと。
「四歳のころでしたと思いますが、杜子春伝の講談を聞いたのです。お金がなくなると縁の切れ目と言うことで、路頭に迷っていました。そして、私達下の兄弟達は、王や公になることは勿論、まともな役職に就くことも不可能でしょう。そうであるからには冒険者になって自立できるようにすべきだと考えたのです。そのためにいろいろな修行をしたり見聞を広めたりしてきたのです」
「なぜ杜子春伝を聞いて、その結論になるのかが良くわからぬが、お主がまともな役職につけぬなどそんなことあるわけがあるまい。……宰相、お主の所で見てもらえぬか?」
「は、あの注釈の人物であれば存外の喜びとなります。むしろ私の補佐にしてくださいとお願いする立場でございます」
あれ?
宰相様の視線が獲物を捕獲する目になっているような。
もしかして、あの注釈についていろいろ文句を言われるのかな?
話の流れからすると、問題自体は少なかったぽいんだけど、やっぱり越権行為と言うことで問題視されていたのかな?
「殿下、よろしくお願いいたしまする」
「はい、よろしくお願いします」
ちょっと気押されながらも挨拶をする。
暫く冒険できなくなりそうだし、亀さんに連絡取らないとなあ。
宮廷を許可なく出ることを禁じられちゃったからには、直接会いに行けないよね。
どうしよう。
遠話の構成を組んでも良いんだけど、亀さんが僕だって分かってもらえるかな?
宮廷で仕事を得られること自体は嬉しいけど、ちょっと困っちゃったな。