第十四話
「ここにこの構成を挟み込むか」
「ええ、せっかくここの構成とそこの構成の間に隙間があるのですから、構成を少し小さくしてデモ中に入れたほうがいいと思います。構成の制御が難しくはなりますが、それは別の場所の構成で管理すれば問題になりませんし」
「ふむふむ、いや、貴殿に術研究補助依頼を出して良かった。非常に参考になり申した。今後も、お頼みすることになると思うので、よろしく願う」
「ありがとうございます」
道士様達からの指名依頼ってどういうものだろうと思ったら、魔法の術研究の補助依頼群が待ち構えていたんだよね。
どうも、組合加入試験での構成方法が評価されて、自分の使う術の構成の参考にしたいと言う道士様が複数おられたんだよね。
研究の補助だから、助言にとどまるんだけど、正直こんな無駄な構成じゃあもったいないんじゃないかな? っていうものが多かった。
それについて意見を出すと、驚かれることが多いのが不思議だねえ。
どうも、構成について道士様達は、道を第一にするために既存の方法から外れないようにするということを繰り返してきたみたいなんだよね。
古いものを磨いてより確実にすることばかりやっていて、新しいことを行わないのが常識だったみたいなんだ。
温故知新という言葉があるように、古いことから新しいことを知ることは出来る筈なのに、古いことを知り自分のものにすれば、それ以上のことは行ってはならないと考えていたようなんだ。
実際僕の魔法だって、新しい部分はあるのかもしれないけど、大本になる絵画構成や透明絵画構成は昔にもあったものなんだよね。
独学であるために、既存とは違う方法を取っている部分もありはするようだけど、僕が思いつく位だから道士様達だって、新しいことを取り入れる気概さえあれば簡単に思いつけた筈だと思うんだ。
実際、助言をすればすぐに理解してもらえるし、大本は古い知識の組み合わせであることを示せば、なるほどと言ってもらえる。
世界的に群雄割拠が続きながらも、七帝国の力が均衡して現状維持状態になっていることもあって、他の部分でも現状維持による固定化が進んでいるのかもしれないね。
そんな日常を過ごしていたら、風の皇帝からあってみたいと言う指名依頼が来た。
僕、一応光の皇族だから他国の皇帝に会うのもどうかと思いはしたけど、伝手が多いに越したことはないからね。
それに、初段でしかない冒険者が宮廷からの招きを拒否するなんてまずはあり得ないとのことだし、亀さんと一緒に参内することにした。
もっとも僕が知っている礼儀作法は、文化が比較的遅れているとされる光のもの。
風は割と文化が進んでいるようだから田舎者扱いされないようには願いたいな。
まあ、庶民出身者も多い冒険者に洗練された礼儀作法を求められても、と思わなくもないけどさ。
それでも流石に、色のついていない白い服を用意して行きはするけどね。
宮廷では、身分の高さで服の色が決まるもの。
光の皇族としてではなく、冒険者として行く以上、無位無官の人でも着られる白の色を選択するのが一番無難だろうね。
冒険者として段がある以上、形式的には大華帝国で身分があると言えなくもないんだろうけど、無難な選択をしたほうが良さそうだね。
「貴殿、どこかでお会いしたことはないか?」
「いえ、風の宮廷に参内させていただくのは初めてでございますので、お会いする機会などないかと考える次第でございます」
風の図書院に忍び込んだ時に顔を見られたか何かしたのかな?
風の皇帝陛下と直接会ったことなんてない筈だし……ああもしかすると、兄の誰かが使者として来たことがあるのかな?
一応兄弟だから、顔がそれなりに似ていてもおかしくないしね。
「そうであるか。しかし貴殿、その若さでかなりの実績をあげていると聞く。風の領内の依頼も受けていただけると幸い」
「機会がありましたら受けさせていただきます。非才の身なれどお役にたてれば幸い」
「貴殿が非才等とは……趣深いことを言われる御仁であるな」
こんな感じにいろいろな話をして無事に依頼は完了した。
でも、亀さんはほとんど話しかけられなかったな。
まあ、亀さんが本来人じゃないのは隠してもいないから、どう対応していいのかわからなかったのかもしれないし、下手に気に入られて後宮入りになるなんてなったら僕が悲しいから良いんだけどね。
美味しいものもいろいろ食べられたから、亀さんは満足してくれたみたい。
仕官の誘いでも来るのかと身構えたけどそんなことはなく。
僕が光の生まれであることは表に出ている情報だし、冒険者としての実績もそこまで高いわけじゃないからね。
外国人の冒険者を青田買いするほどのことはしなかったというだけかな?
風の宮廷からの指名依頼を機にしたのか、他の国からの指名依頼も来て参内をしていった。
でも光からの指名依頼はなかったな。
宮廷には好きな時に戻れるからわざわざ行く気はしないからいいんだけどね。
もしかすると、他国の冒険者ならば気楽に呼ぶことが出来るけど、自国の冒険者となるといろいろ複雑なのかな?
着て行く衣装の色に困るから光から呼ばれなくて良かったとは、言えるかも。
魔法の構成に関する考察の部分で、レーモンド・エドモンド・フィースト著 リフト・ウォー・サーガシリーズ第一部、魔術師の帝国でパグが帝国について考察していた内容を参考にしています。