第十三話
「えいやー」
亀さんと白兵戦の修行をしている。
今までまともに先生に教えてもらえてなかっただけに、亀さんに教えてもらえることは新鮮なことが多いね。
経験則で最善を目指してはいたけど、その場その場での最善よりも、流れに載った最善のほうが大事とか、独学じゃわからないことがいっぱいあるよ。
重心とか考えてバランスとると言うことを考えてきたけど、あえて重心に引きずられて大きな力を発揮するみたいな発想法は、教えてもらえないと出てこなかったや。
体重ごと武器の重さを活かした攻撃は確かに、理にかなってると思う。
もっとも、亀さんの装甲を前提にしたものだから、僕の場合は魔法で防御する等して前提条件を整えないといけないとも思うけどね。
魔封じされる可能性もあり得るから、純粋な白兵戦も出来るようにしないとはいけないとも思うけど、基本は魔法と組み合わせて戦うんだから、特に問題はないかな。
それでも、効率だけ考えると亀さんが前衛として戦って、僕が後衛になるほうがいいんだよね。
女の子に守られるのってちょっと情けなく思いはするけど、亀さんが頼りになると言うことでもあるからね。
役割分担で行動するのが一番なのかな。
その代わり、魔法の構成のやり方については、僕がいろいろ亀さんに教えてあげている。
亀さんが習った方法もそれはそれで面白いとは思うけど、正直無駄が多いみたいだし。
必ず韻を踏むことで、構成に緊張感を持たせるというんだけど……韻を踏んだからなんだというのが実態だよね。
必要な時に必要な魔法を使えるようにすればいいんだから、構成の内容重視で良いと思うんだ。
それに、韻を踏むことに捕らわれて余計な構成くむぐらいなら、他の構成を編みこんだほうがよほど効率いいし。
特に絵画構成の場合は、絵としてしっかり出来ていることよりも、構成の中身のほうが重要なんだから。
美的に悪いと言うなら透明構成にすれば周りからは見えないんだし、形から入るのは僕はあまり好みじゃないね。
「朱さんは実利を重視されるんですね。もう少し余裕があっても良いようには思いますけど、魔法の構成でやる必要はない、ということなんですね」
「うん。確かに僕がいろいろ切り詰めているのは事実かもしれないけど、魔法は出来るだけ詰め込んだ構成にしたほうがいいと思うんだ。勿論、その人にあったやり方はあるんだろうけど、僕は変に形を大事にしないほうがいいと思っているよ」
「確かに名より実を取ったほうがいいですよね。その上で、美しい構成ならばなおのことお良いんでしょうけど、出来ることが出来なければ意味がないとは思います」
こんな感じに過ごしながら、依頼も着実に果たしている。
調査や退治が主だけど、着実に実績を上げていった結果、昇段試験を請けないかという誘いが来た。
「昇段は良いですけど、亀さんと一緒に受けていいですか?」
「ええ、亀さんも一級に上がっていますからね。むしろ、二人で受けられるように亀さんの一級昇給を待っていたという面もあります。一人で受けるには厳しい試験ですので、問題ないですよ」
「一人では厳しいとは、どういう試験なんですか?」
「初段への昇段試験は、決まっています。邪龍退治です」
「邪龍退治ですか? そんな昇段試験を受ける人を満たすほどに邪龍がいると言うことなんでしょうか」
「昇段試験を受ける人自体そこまで多くはありませんからね。それに、以前組合で捕獲した邪龍と対戦してもらうという形ですから、危なくなったら邪龍を再封印して戦いは終わりです」
「途中で終わらせるのですか?」
「一級冒険者になれるだけでも貴重な戦力なんですよ? そんな人命を簡単に散らさせるわけないじゃないですか。その辺はご安心ください。もっとも、それに甘えるようでは昇段することはできませんけどね」
なるほど、試験だけあってちゃんと配慮はされているんだね。
とはいえ、亀さんとなら勝てる気もするし、何より戦う時に勝てないなんて思って戦うのは、負けへの第一歩だしね。
勿論、己の力量と相手の力量を比較して、勝てない相手とは戦わない、戦わざるを得ない時には生き延びる方法を探るといったことが必要になるとは思うけどね。
戦う場は旧帝都にほど近い閉鎖地域とのこと。
旧帝都には段持ち冒険者しか入れないけど、旧帝都付近もかなり広範囲にわたって閉鎖地域になってるんだそうで、そこの一つで邪龍と戦うように言われている。
旧帝都だけあって、大華帝国時代は交通の要衝にあったため、この閉鎖地域だけでも解放されれば交通の便はよくなりそうだけど、旧帝都の脅威を感じてまで利用したい人はいないようで実質的に冒険者組合が自由に使える場所になってるんだそうだ。
形式的には、大華帝国が自国の帝都とその周辺を使っていると言うだけのようだけどね。
亀さんと邪龍を倒すにあたってどういうことを注意すべきか話し合った。
・龍は空を飛ぶ
「空を飛べないように、地面に縫いつけるような構成にするのはいかがでしょうか?」
「確かにそうだね。飛べない龍はかなり機動力が落ちるし、僕達の攻撃も届きやすくなる。その作戦で行こう」
・龍は口から炎で攻撃してくる
「炎については、移動結界を張れば多少は緩和できますけど、基本避ける方向で行きましょう。実戦で結界の強さを試すわけには行きませんし、いざとなっても緩和されると言うふうに思えるのが強みぐらいで良いと思うんですよね」
「なるほどね。結界に頼りきってそれが破られた時のショックも起きそうだもんね。あくまで、結界は最後の砦的な扱いで良さそうだね」
・龍は尻尾でも攻撃してくる
「尻尾の攻撃も、避けるしかないかな?」
「避けられるならそれに越したことはないかもしれませんが、そこを攻撃するのもありでしょうね」
「ああ、確かにダメージを与えることは出来るもんね」
「ええ、それもありますし、攻撃を躊躇するようになるでしょうから、龍の行動選択肢を制限することが出来ます」
「なるほどねえ。龍の行動を誘導するためには避けてばかりいてもいけないんだね」
こんな感じに相談を進めていった。
今回みたいに敵がどういう存在か分かっているなら、事前に相談して細部をつきつめておくにこしたことはないもんね。
勿論、邪龍がどれぐらい強い存在かによっては、臨機応変に変えていかないといけないんだけど、、
……そこまでちゃんと考えないといけないと思っていた時期が、僕達にもあったんだよねえ。
戦い始めた途端に、結界で地面に縫いつけたら空に飛べなくなるどころか、動けなくなっちゃったんだよね。
で、動けない状態で尻尾を攻撃すれば、尻尾を逃すために僕達二人がばらばらに動くだけで右往左往されてろくに炎も吐けなくなって。
簡単に倒しちゃった。
ちょっと、邪龍の実力を過大評価していたのかな?
勿論、試験に使われるような大して強くない邪龍が相手だったからこそ、ではあるんだろうけどね。
でももうちょっと強くないと試験としては不十分だと思うんだけど。
もしかして以前言ってた僕に指名依頼をしたいと言っていた道士の人が、僕達が段持ちに簡単になれるように圧力をかけたのかな?
「ここまで鮮やかに倒されるとは、流石ですね。朱さんと亀さんは、これで初段に昇進されました。段持ち冒険者が増えることは、組合としても大歓迎となります。今後も、よろしくお願いいたします」
「結構簡単に倒しちゃったんですけどいいんですか? もう少し難しい試験になるかと思ってたんですけど」
「いえいえ、流石は仙人様同士だと感心していましたよ」
「いや、何か勘違いしている人多いけど、僕仙人じゃないからね? 亀さんは仙骨が見いだされているけど、僕はそんなのないよ?」
「またまたご謙遜を」
「もう……」
「それはともかく、段持ち冒険者となられましたので、旧帝都に入ることを許されました。朱様の研究に役立つ文献も旧帝都にはありますでしょうから、ご自由にお使いください」
段持ちになったことでの特典として、旧帝都の文献と言うのは結構大きいね。
大華帝国本島にある文献ですら、透明絵画構成に至ることが出来たんだから、もっと貴重な文献もあるだろうし。
光の図書院とは比較にならないほど優れた本もあるかと思うと、期待しちゃうな。
そこで得た知識を元に精進して行こうっと。
ま、旧帝都の場合普通の場所でも、いつ魑魅魍魎に襲われるかわからないと言うから、余り研究に没頭しても行けないんだろうけどね。
それでも大きな一歩になると思うと、期待しちゃうよ。