第十二話
亀さんと組んで冒険をすることでいろいろなことを知った。
どうも僕の魔法は一般的ではない段階まで進んでいること。
特に、絵画構成はそれこそ使えるだけで、仙人と間違えられても余りおかしくないことを。
亀さん自身は、仙人の卵だけあって絵画構成の基礎は知っていたけど、透明絵画構成については聞いたことがないって言ってるし。
絵画構成が出来ると言っても、文字と文字の間が荒くて、絵画と言うにはちょっと無理がない? って感じ。
それでも、いくら油断していたとはいえ邪仙である迷生を撃退することが出来た程だから、仙人に対抗できるだけの魔法だしね。
仙人と言っても、思ったよりも魔法に関する実力はなくても慣れるのかな?
勿論、邪仙みたいな力づくじゃない仙人ならば、経験豊富で魔法以外の面が優れていると言ったところがあるんだろうから、魔法だけ勝ったところで意味はないんだろうけど。
少なくとも人格的なところは、仙人様みたいな欲望なしになんて無理だしねえ。
亀さんが一緒にいるだけで実際嬉しいもん。
「朱様は、私の命の恩人です。そして一緒に冒険をしてくださると言うのです。本当にこんなに嬉しいことはありませんよ」
「敬語はやめてよ。僕は十二歳の若造に過ぎないんだからさ。君みたいに長く生きて仙人になったような人とは比較にならないよ」
「いえ、私は仙人として覚醒してから五年ぐらいですからね。朱様のほうが実質的には年上です。それに命の恩人に対して敬語を使わないとは、私に忘恩の徒になれと言われるのですか?」
「そういうわけじゃないけどさ。ちょっと恥ずかしいかなって」
「フフフ、慣れてください」
僕自身、まがりなりにも元が皇族だから他人から敬語を使われるのは慣れているんだけどね。
でも、亀さんみたいにかわいい女の子は身近にいなかったし、そんな子から敬語で話されちゃうとなんか恥ずかしいし緊張しちゃう。
将来的には慣れないといけないのはわかっているんだけどね。
父様や兄様みたいに慣れきって大勢の女の子を侍らせて子供をたくさんと言うのをやりたいか? と言われると疑問を持っちゃうけどさ。
やっぱ男なら、一人の女性と幸せに暮らしたいと思うよね。
勿論皇帝になれば、世継ぎの問題はあるし、子孫繁栄を見せつける必要はあるんだと思う。
それにしたって、男子だけでも三十人以上はやり過ぎだと思うけどさ。
文官の報告書でも、多すぎる皇族の維持費用が財政の負担になっているなんてものあったぐらいだし。
そうだそうだと思いはしたけど、僕自身の生活に関わるから、賛成意見の注釈はつけないでおいたよ。
まあ、その相手が亀さんかどうかはわからない。
亀さんだって、人生(亀生?)があるんだし、僕は仙人じゃないから寿命が違いすぎるしねえ。
将来仙人になれるとしてもだいぶ先だろうから、釣り合いが取れなくなっちゃうだろうし。
今は一緒に頑張るけどさ。
二人で受ける初めての依頼は、調査依頼。
調査と言っても、僕達冒険者が受けるものだから平和に行えるようなものじゃない。
闇の森と呼ばれる魑魅魍魎の領域がどうなっているかの調査だね。
もっとも全部滅ぼすと言った物騒なことをする必要はない。
あくまで今回受けた依頼は調査だからね。
闇の森に近づくには、命を失う危険があるけど、その危険を報酬の変わりに覚悟して行動出来る存在ってだけだから。
勿論、生きて帰るつもりではいるけど、命を失う覚悟は常に持たなきゃいけないよね。
今回は亀さんと一緒だから、二人でしっかりやって行きたいと思う。
僕は策敵や実地調査の情報収集をメインにして、亀さんが実際に戦うと言う方向で組むことにした。
僕自身白兵戦はそれなりには出来るけど、亀の甲羅で防御が出来る亀さんに守備力で勝てる筈もないし、今回は攻撃よりも防御が大事な依頼だから、亀さんのほうが適任なんだよね。
それに、自分達がどれだけのことが出来るかをお互いに認識するためにも、今回はちゃんと役割分担をしっかりしあったほうがいいと思う。
策敵を始めると、闇の森と言うだけで魑魅魍魎がたくさんいるね。
陰摩羅鬼みたいな死体が変化したものぐらいは序の口で、女性をさらって自分の子供を産ませる猿の妖怪である玃猿や木の精霊である彭侯等もいるっぽい。
こうなると、周辺の集落も結構被害が出ているのかな?
玃猿ぐらいなら、挑戦できなくもないんだろうけど、今回は調査依頼だから倒した所で報酬にならない。
組合の説明でも、襲われた時以外は倒さないようにという指示が来ているから、悔しいけど放置かな。
冒険者は依頼を遂行するものであって、今後脅威になるからと勝手に倒していいものじゃないと依頼の説明の時に言われちゃってるもんね。
恐らくは、実態を把握して強くなりすぎたら排除するけど、弱いままならば人が容易に入れないということで人の流れを限定できるなどの利益のほうが大きいので放置すると言うのが実態なのかもしれない。
犯罪者を容易に逃亡させないようにする、関所を有効に機能させる、と言ったことを考えれば、人の生活域を限定したほうがいいわけで。
結果、多少の被害が周りの集落に出たところで必要経費と言うのが、統治する側の言い分となっているんだろうね。
勿論、襲われる人たちはたまったものじゃないし、余りにも被害が大きくなると住む人がいなくなるから討伐して数を減らして調節すると言ったことも行われているんだと思う。
なんか悔しく感じるけど、国全体の治安を考えれば、どちらのほうがいいとは、簡単に言えないし、僕達は依頼を遂行していくしかないね。
何より、僕の実家がやっていることなんだから、どう考えてもおかしいとなったならば目の前の現状を変えるよりも、直接政策そのものを改めさせたほうが良いんだよね。
亀さんの戦闘力の高さは今回で思い知った。
この前は池に籠っていたから全然わからなかったけど、白兵戦で戦っていたら僕負けていたや。
陰摩羅鬼が来ても瞬殺だもんね。
事前に策敵で来ることを伝えてあったのはあるんだろうけど、圧巻だったよ。
もし、亀さんと喧嘩するようなことがある場合は、距離を置いて身体がぶつかり合うのは避けないといけないね。
魔法を使えば現状ならば簡単に勝てるだろうけど、奇襲されて肉弾戦になったら勝ち目ないよ。
僕も戦い方を訓練しないとなあ。
でも今まではまともな先生がいなかったけど、亀さんと言う良い先生を僕も得ることが出来たわけだし、頑張ろうっと。
調査依頼の結果を組合に報告。
恐らくはこの程度ならば討伐はされないとのこと。
定期的に依頼がでるので組合としては良い資金源だし、これからも依頼することになると言われた。
気分的には複雑だけど、こういう依頼をコツコツやって行くのが冒険者なんだね。
闇の森なら盗賊団のような犯罪者が籠ることもないだろうし、必要悪だと言うのはわかるんだけどねえ。
僕達自身が精進して強くなって、負けそうになったら逃げることも視野に入れられると言った挑戦するのも可能じゃなくて、確実に倒せるようになることも必要なんだろうね。
倒したことがないからこそ強さがわからない面はあるけど、玃猿で不幸になる女の人は減らしたいし、他の魑魅魍魎だって一般人には脅威。
せっかく冒険者になっているんだから、ちゃんと倒す依頼を依頼される段持ち冒険者になって、人々の脅威を取り除けるように精進したいな。