第十一話
次の依頼は、初めから退治する依頼にしてみた。
僕自身は、どういう依頼でもいいと思っていたんだけど、組合の担当者が是非にと言われて受けたって感じかな。
仙骨を見いだされて修行をしていたけど、中途半端に終わって邪道に走った邪仙の亀を退治するのが、今回の目的になるとのこと。
流石に今回は一緒に行動してくれる冒険者を紹介してもらえた。
護衛依頼程度ならば必要ないだろうと判断されたみたいだけど、まさかついでに盗賊退治することは想定外だったんだそうで、その辺の常識も含めて教えてくれるとのこと。
「君が、仙人疑惑のある朱棒君か。よろしく」
「いえ、僕は仙人じゃないですからね? 普通に十二歳ですよ!」
「まあその辺の細かいことは、気にしなくても良いじゃないか。 劉高という。よろしく」
「細かくないです……よろしくお願いします」
仙人疑惑って、なんでだろう。
多少皇族だからかなり滑り出しが有利だったとはいえ、普通に修行して十二歳になっただけなんだけどな。
私塾選びでは、皇族の名前が出せなくて不利になったし、選んだ所では逆に皇族とばれたらしくまともに対戦してもらえなかったし、そこまですごい状況だとも思えないんだけど?
私塾じゃ、絵画構成を成功させた後は、まともに教えてもらえなくなったし、むしろ僕はもっと上を目指せたんじゃないかな?
ま、それはともかく、依頼内容の説明をしてもらう。
「今回の亀、亀幸は、仙骨を見いだされて仙人の修業をしていましたが、師匠の仙人迷生のところを衝動的に飛びだし、師匠に対抗するために邪気を受け入れた存在です。師匠の迷生が依頼人で邪仙として成長する前に殺してほしいとのことなんですが……恐らく、この依頼には裏があります。迷生は、仙人になる前には、女にだらしないことで有名であったという逸話があります。幸は人に化けることが出来、結構な美少女とのことですから、手を出したのでしょうね。そして、飽きたので処分しようとして逃げられたのでしょう。邪仙になってしまった以上、助けることはできませんが、正直組合も断ることを視野に入れた依頼です。証言を得て、迷生の行為を罰することも視野に入れて行動する必要があります」
「依頼人の利益を第一にするのが冒険者じゃないんですか?」
「そこが難しいところです。冒険者組合は、冒険者の依頼を斡旋する組織である以前に大華帝国の治安組織の一つという形式でもあります。大華世界を乱す犯罪者を処罰する為に役所に突き出すことも仕事の一つなのですよ」
「でも、そんなことをしては、報酬がもらえなくなってしまうのではないですか?」
「ええ、でも、悪人と分かっていて突き出さないとなれば、今度は組合の立場が問題になります。まあ、こういう組織であることは、通常依頼主もわかっています。だからこそ、迷生も殺すことを依頼にしているのです。この条件ならば、依頼遂行するには殺さないといけませんからね。邪気を受け入れた邪仙は、体内の邪気に見合う邪気を補充しなければ生きていけませんから悪事を繰り返しますし、殺す以外に救う方法はありません。だからこそおかしくないと思われると考えたのでしょうが……」
なるほどね。
自分の悪事の隠ぺいは出来ると踏んだからこそ、迷生は依頼してきたわけか。
でも、そういう経緯だと殺すのはかわいそうに思うな。
……体内の邪気に見合う邪気を補充しないと生きていけないなら、体内の邪気を消滅させたらどうなるんだろう?
絵画構成を使えば、その位のことはできそうだと思うんだけど、実際のところはやってみないとわからないかな?
邪気を体内に吸収しなくても生きていけるなら、殺さずに済むわけで。
今のところ、罪を犯しているわけでもなさそうだから、亀の仙人に戻れば、普通に生きていけそうな気がするし。
酷い師匠に当たった不幸があるから、その後修行をするかどうかはわからないけど、出来ることなら大成してもらいたいな。
「説明ありがとうございました。その流れだと、見つけてもすぐに殺さずとも良いんですよね」
「ええ、証言させた上でということになります。助けることはできませんが、無為に死ぬよりは、仙人でありながら仙人とは言えぬ所業をする邪仙モドキを処罰する礎になったほうが彼女も幸せでしょう」
「いえ、邪気を体内から取り除くことが出来ないか? と考えたんです」
「え? そんな方法があるのですか? やはりあなたは、仙人様だったのですね」
「いえだから、私は仙人じゃありませんって。絵画構成を使えば、邪気を体内から消すことができそうだなと言うことです。勿論、始めてやることですので、実際に出来るかはわかりません。それを試すことが認められるかどうか? と言う確認ですよ」
「そうなのですか。まあ、捕らえた後は時間がありますからね。そう言ったことを試みることは、問題ありませんよ」
ぶっつけ本番でうまく行くとも限らないけど、まあ殺すしかないという状況よりは試してみるだけの価値はあると思うんだよね。
この前の依頼で、慰み者になった女の子達を見ていたこともあって、そう言った被害者の女の子は救えるものなら救ってあげたいという気持ちになったのもあるかな。
亀幸が籠っているという池に来た。
流石に元が亀だけあって、池は大好きみたい。
「あれ?でも、水は邪気を洗い流してしまうんじゃないですか?」
「いえ、淀んだ池は邪気をため込みます。仙気もため込みますので、仙骨を見いだされることも増えますが」
ああ、水だから洗い流されるとは限らないのか。
水を構成に含めようとしていたけど、流れる水としないといけないんだね。
淀んだ水じゃ、かえって逆効果ってことになりそうだし。
まずは捕獲することが優先される。
殺すだけなら池毎破壊するみたいなことも出来るんだろうけど、捕獲となると池の水をしびれ薬に変えるみたいなもので良いかな?
魚とかも巻き込まれるかもしれないけど、その辺は……再利用する方向性で。
「一つの魔法のみで無力化とは。邪仙の立場って一体……」
「いえ、彼女が攻撃してきていたら話は別だったはずですよ。籠城して迎え撃つことしか考えてなかったっぽいですし」
「亀幸は、迷生にむざむざ殺されないことしか考えていなかったのかもしれませんね。無力化そのものは、問題ありませんので、試されるならどうぞ」
そして、僕は邪仙となった亀の体内にある邪気を消滅させるべく、絵画構成を組み始めた。
生き物を相手にするだけあって加減が大変だけど、やってやれないことはないはず。
隠す必要もないからと透明に回している部分も構成に回して、黒が白くなる絵画構成を行い、亀の体内の邪気を消滅させていく。
女性だけあって陰気が大きいけど、慎重に邪気だけを消していく。
陽の気がない分、邪気が身体に定着しきってないのも大きかったかもしれない。
気づいたら暗い時間になっていたけど、何とか邪気を消滅させたところ、亀から人の姿になった。
仙人になっていた姿に戻ったということで良いのかな?
確かに美少女で、仙人が道を誤るのもわからなくもないかな。
でも、僕と同年代の少女を仙人がと言うのは、いくらなんでも。
「あれ? あなた達は?」
「邪仙になった君を討伐するように依頼された冒険者だよ」
「え? 師匠に襲われて撃退した所までは覚えいているんだよね。でもその後の記憶がないんだけど、なにがどうなったの?」
「えっと、お譲さん、迷生の愛人にされていたのでは?」
「えええええ? 私は撃退したはず。でも、弟子としては許せないと言われて弟子入りした時に渡された指輪が光ってそのまま気を失ったのだけど」
「……迷生は、仙人ですらなかったようですね」
「というと、どういうことですか?」
「亀さんに、邪気を浴びせて邪仙に仕立て上げたんですよ。自分を撃退したことに腹を立ててとうことでしょうが、こんな外道を為す者を仙人とは言いません。むしろ、迷生こそが邪仙ですね」
うわ、酷いや。
自分で邪仙にした相手を殺す依頼を出すって。
そこまで辱めるのはちょっとなあ。
しかも弟子を襲って撃退されるって、実は大して強くないのかな?
仙人様となると、かなり強いイメージあるけど。
「冒険者組合として、朱棒さんに依頼します。迷生を捕獲してください」
「わかりました。望むところです」
……その後、迷生を捕らえて迷生の体内に邪気があることを確認。
邪仙であるとして、役所につきだした。
役所側は当然ながら、公開処刑をしてくれるようだ。
「ありがとうございました。まさか、邪仙に弟子入りしていたなんて。救ってくれて本当にありがとうございます」
「いえいえ、朱棒さんがすべてやってくれたのですよ。ところでお譲さん、今後のあてはあるのですか?」
「特にはないですね。仙人の修行をするにも、知っている仙人さんがいませんし」
「では、冒険者になられてはいかがでしょう? 組合としては仙人の卵が冒険者になっていただくのは非常にありがたいことですし」
「あれ? 女性でも冒険者になれるんですか?」
「普通は無理ですね。ですが彼女は人ではありませんから。人以外であれば、男だろうと女だろうと扱いは変わりません」
何か不思議だなあ。
人の女性は冒険者になれないけど、動物から人の姿になった相手ならば問題ないって。
「冒険者であれば、組合の宿屋も利用できますし。いかがでしょう」
「助かります。冒険者にしてください」
結果、亀幸さんも冒険者になった。
三級と言うことはかなり適性が高かったみたいね。
僕自身が一級に一発でなっているから何とも言えないけど。
冒険者になった経緯から、僕と組む形になるという。
こんなかわいい子と一緒に冒険できるのはドキドキしちゃうな。