第十話
初めての依頼として、隊商護衛の依頼を受けている。
依頼主の袁さんは、僕の年齢と顔立ちを見て幼いけど大丈夫なのかと組合の職員の劉さんに確認していたけど、僕が魔法の使いでであると説明して、僕も無詠唱で魔法を使って見せて安心してもらえた。
もっとも、実績皆無のなりたて冒険者の僕何だから、心配するのは当然だと思えるよね。
ただいくら子供でも魔法を使えるならば安心と判断して得もらえる程度には、魔法の使い手への信頼は絶大みたいだね。
護衛任務と言うことで、隊商から一里単位での策敵魔法をかけてみる。
その結果、割とすぐに集団の敵意を捕らえることが出来た。
ちょうど、隊商が盗賊に襲われることが多いという噂のある地域だけに緊張しちゃうなあ。
隊商の責任者である楊さんにそのことを伝え、隊商自体に移動式の結界をかける。
中心にある結界石を基準に隊商をすべて覆うような結界にしたもので、その要となる結界石は、楊さんの人に持ってもらう。
「楊さん、この結界は敵意のあるものは通さないようにする効果があります。もっとも、結界そのものを壊して入ってくることもありえますので、その時は戦闘になると思いますのでご注意ください」
「朱君、ありがとう。結界があるだけでも奇襲を受けずに済むということだろう? 助かるよ。」
「これが僕の仕事ですから」
そして暫くして、十人ほどの盗賊団が攻めてきた。
手に取るように分かるので、姿が見える前から楊さんに説明して待ち構えていた。
そして、隊商の前まで来た盗賊団。
だが、結界に引っ掛かって進めなくなり、進めなくなったこと自体に彼らは戸惑っている。
その状況で僕は、魔法で彼らの拘束を行った。
本当は簡単に倒すことも出来たんだろうけど、捕らえて役所につき出したほうがいいかなと思ったんだよね。
盗賊団は賞金首でもあるから、その賞金は依頼主である袁さんに入る。
そうすれば、袁さんは賞金を受け取れると同時に盗賊をとらえる功績をあげたことになるわけだ。
僕自身もそのおこぼれは貰えることにはなるんだけど、依頼では依頼主の利益を大きくすると自分の信用につながるとのことだし、拘束して輸送する程度なら大した魔法的負担でもないので連れて行くと楊さんに伝える。
楊さんのほうも、当然袁さんの利益になることになるから反対はしない。
でも、綱で手足を封じ、口に猿轡をかませるることは要請された。
まあ、魔法だけじゃ不安なのはわかるし、僕自身保険があるから気楽だし。
喜んで綱で縛りつけ、猿轡をかまさせてもらった。
輸送すると言ってもちょっと浮かせて進めるだけのもの。
たぶん、本人達はかなり厳しいはず。
手足も封じているから、下の処理は自力では出来ないし、僕自身がしてあげるつもりもない。
臭いを発されると困るから防臭の魔法は使うけど、逆にいえばそこまでのこと。
人を襲う盗賊に情けをかける必要なんてないよね。
最低限の食事はさせないと飢え死にしちゃうから与えはするけど、その程度の経費は賞金からしたら大した負担じゃないし。
無詠唱魔法の使いでの可能性も考えて、魔封じはしているけど、この盗賊団には魔法自体使える人はいなさそうだね。
魔法の結界のことすら知らなかったみたいだし。
ただ、尋問の結果、全員じゃないとのことだから警戒を怠るわけにはいかない。
実際、彼らの仲間らしき気配が策敵範囲内にあるしね。
劣勢になったら誰か一人が変事を仲間に伝える段取りだったみたいだけど、今回は伝えに行く前に全員拘束されてしまったということみたい。
そういう段取りにするぐらいなら、一人を見届け人にして、遠方で見ていてすぐに逃げるぐらいすればよかったのにねえ。
それが出来るほどの戦力の余裕がないのかな?
「楊さん、本体のほうも捕らえますか?」
「朱君の結界があれば、我々は大丈夫そうだね。策敵能力もしっかりしているようだから、何かあったらすぐに戻ってきてもられるだろうし、遠征してきても構わない。我々はここで野営をして待たせてもらう」
「わかりました。何かが近付いているようでしたら、すぐに戻ります」
瞬間移動魔法のことは伝えてないけど、魔法を使えるなら使えるのが当然だと思われているんだろうね。
瞬間移動魔法自体、構成はあまり難しくないし、そう考えられるのもごく自然に思えるけどさ。
盗賊団の本拠地は遺棄された砦のような場所だった。
恐らくは、大華帝国時代の駐屯施設だったんだろうけど、管理されずに放置されているということは、光としていらない場所扱いなんだろうね。
でも、放置して盗賊の拠点にするぐらいなら、ちゃんと破壊しておいたほうが安上がりに済んだかもしれないのに。
あ、でも、護衛を必要とさせることで、利益があると判断したのかな?
光は、農業生産力こそ高いけど、伝統的に武力には劣ると評されやすい。
となると、傭兵となる冒険者を領内に常にある程度の数をいさせたいのかな?
傭兵の冒険者は無視できない戦力として戦場で力を発揮することが多いみたいだものねえ。
完全に平和だとそういう傭兵も減るから、ある程度盗賊がいることは国益になるのかもしれない。
いざとなれば、盗賊も招安すれば戦力になるかもしれないし、それでいて商人に討伐させれば、自分で軍を動かさずに済むし。
案外いろいろちゃんと考えられているのかもしれないねえ。
僕も一応皇族の一人だから、そういう裏のことを考えて行動したほうがいいのかもしれない。
砦の攻略そのものは簡単に終わった。
砦の中にいる人ごと手足が動かせなくなる構成を使った。
下手したら、砦の中に捕らわれている人がいるかもしれないから余り手荒なことも出来ないしね。
(実際、捕らわれていた近隣の村娘さんが三人いた)
後は、盗賊を一人一人縛り、村娘さん達を村まで連れ帰ったうえで盗賊を連れ出しておしまい。
娘さん達は慰み者にされてしまっていたようだけど、命は助けたから幸せになってほしいな。
村の人達には感謝されたからそれなりにサポートされるだろうしね。
国益的には盗賊の存在が有益でも、事例ごとには不幸になる人が出てくる
難しい問題だよねえ。
どこまでを許容し、どこからを許せないとするかは、為政者の腕の見せどころだろうね。
父様や兄様はとっても大変なんだなって、わかったや。
文官の部屋で見かけた報告書の誤り指摘した文書が多少でも役に立っていることを願うよ。
僕達三十番以下の兄弟が政治に関われるとは思えないけど、少しでも意見を言えるようにしておいたほうがいいのかな。
邪魔なだけ扱いかもしれないけど、せっかく口を出す機会がある僕なんだから、いつ聞かれても応えられるように自分の意見を持つべきじゃないかと思う。
こんなことを考えることが出来ただけでも、今回の依頼は有意義だったのかもしれない。
その後は特に問題も発生せずに目的地に到着。
盗賊団は役所に突き出して処理してもらう。
盗賊団を捕らえた方法を聞かれて正直に答えたら、役人の人達が無言になっちゃったんだけど、どうしたんだろう?
「なぜ貴殿のような熟練した仙人様が十二歳の子供の振りをしてこのような護衛依頼を受けたのですか?」
「えっと、僕、本当に十二歳です。仙人じゃないですよ。初めての依頼を頑張ってみたんですが、何かいけなかったんでしょうか?」
「……流石に初めての依頼でここまで鮮やかな魔法を使われるのは非常識ですよ。仙人様、下手なおとぼけをされるのは寒いですよ」
「いえ、本当に十二歳になったばかりですってば。信じて下さい」
「いや、信じがたいんだが……まあ、今回の功績が無になるわけでもありません。わかりました。そういうことにしておきましょう」
「いやだから僕……いいやもう」
なんか変な誤解をされちゃったけど、初めての依頼が成功に終わったんだし役人の人のことはもう気にしないでおこう。
依頼主にも組合を通じて周さんの依頼完了書を送付して報告してもらう。
初めての依頼も成功に終わったし、次はどんな依頼を受けようかな。