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第九話

「朱棒様、貴方は最低でも一級冒険者の実力があると判定されました。筆記試験は満点でしたし、あれだけの魔法が使えるわけです。戦闘技術等見なくても十分だと言うのが判定ですね」


「え? 不合格確定だったから試験が中止になったんじゃなかったんですか?」


「そんなわけある筈ないじゃないですか。透明絵画構成の使い手なんて、伝説上の存在かと思っていましたよ。まさか、こうして話が出来るとは夢みたいです。」


「えっと、ほめられていると解釈していいんですか?」


「もちろんです。しかしよく、透明絵画構成を実現させられましたね? 既に大華世界で出回っている書物にもほとんど載ってないはずですよ」


「大華帝国本島に行きました際に、伝わっている書物を見せていただいたんです。その内容を元に構成を組み立てるに至りました」


「ああ、本島ですか。なるほど。旧帝都以外では失われた書物が多いのですが、確かに本島ならば、そう言った失われた書物の一部があっても不思議ないですね。一部では話があったんですよ。仙人様が身分・年齢詐称でからかいに来たんじゃないかって」


 僕が仙人?

 それはあり得ないよねえ。

 杜子春みたいに仙薬を作る丸薬を飲んで一言もしゃべらない修行をしたこともないし、不老不死どころか早く十二歳まで歳とらないかな? と思っていたぐらいだもの。

 不老長寿の仙人になんてなっていたら、いつまで経っても十二歳になれずに冒険者試験を受けられなかったよ。


 でもまあ、一級と言うと、確か昇段試験が受けられると説明されていたような……


「昇段試験?!」


「ああ、そうですね。実際に依頼を受けていただいてふさわしいと判定されれば、割とすぐにでも昇段試験を受けていただく形になります。段になってもらって指名依頼をしたい道士の方等もおられますので、割と機会は早くめぐってくるかと思われますよ」


 すごいことになったなあ。

 でも、道士様が指名依頼してくるってどういう状況だろう?

 道士様なら、たいていのことは自分で出来る筈だよね?


「冒険者組合手形を発行しますので、名前や出生地、両親の名前などを書いてください。形式的には、大華帝国の手形になりますので、どこの国の関所も問題なく通ることが出来るようになります」


 言われたとおりに必要事項を記入していく。

 でも、関所を通れるようになるのかあ。

 地図で場所を確認して、座標を魔方陣構成して直接瞬間移動していたから、関所って通ったことないんだよね。


 本当は関所を通らないといけないんだろうけど、ちょっと面倒だなあ。

 まあ、隊商の護衛依頼等では必要になるんだろうし、手形があるに越したことはないよね。

 光の手形は発行してもらえるかどうか、疑問だし。


「おや? 御父上の名前が先帝陛下と同じ名前なのですね。お若いのに絵画構成が出来るようなお方となると、御父上の名前も特別なものになるのですね」


 いや、同じ名前と言うか、本人なんだけど。

 でも、何か説明すると余計にややっこしいことになりそうな気がするから言わないでおくけどさ。

 それにこんな街中でいきなり、自分が皇族だと名乗っても、頭おかしいと思われるだけな気はするしねえ。

 僕自身、宮廷を黙って抜けだしてきているんだから、公式にはここにはいないという自覚はある。

 もっとも、宮廷側は僕達三十番以降の皇子の所在を積極的に把握しようとしているかどうは疑問だけどね。

 大華帝国本島に行ったときは、一カ月位宮廷を留守にしたんだけど、戻った時にも何も言われなかったからねえ。

 他の兄弟達ですら何も言わないから、いてもいなくても一緒扱いなんだろうね。

 冒険者になったことぐらいは、一応報告した方が良いのかな?

 まあ、侍従や他の兄弟と雑談するような機会があるともあんまり思わないけどさ。


 僕って、小さいころから修行の日々に明け暮れていたから、他の兄弟達と遊んでいなかったこともあって親しい兄弟がいないんだよねえ。

 話すにも何を話していいかもわからなかったし、必要性を認めていなかったというか。

 侍従にも用があったらお願いすると言った程度の関係で、積極的に親しくしていたお気に入りの侍従とかもいなかったからねえ。

 僕がそういう態度なのに、積極的に親しくしてくれる侍従なんている筈もないのは、仕方がなかったことだよねえ。

 侍従達だって、僕達のご機嫌をとることで自分に利になるならともかく、大勢いる兄弟の中の一人にしか過ぎない僕にかまける理由なんてないだろう。


 当然、服とかを僕が大きくなるのに合わせて変えてくれていたから、多少は認識してくれていたんだろうけど……

 あ、でも僕のほうも着やすい服をいつも用意してくれていたことを感謝すらしていなかったものなあ。

 一カ月の旅の途中で服がきつくなりだしてたのに、何も言わなくてもすぐに服を変えてくれたことを考えると。

 ……僕が、侍従達を無視しすぎていたんだね。


 もしかすると、僕が長期不在にしていることも侍従のほうは把握しているのかもしれない。

 ただ、あえて黙認してくれていたのかもしれないね。

 となると、下手に報告して騒ぎになったら侍従達の配慮を台無しにしてしまうかな?

 ある程度冒険者稼業が軌道に乗るまでは、侍従達の配慮に乗っからせてもらうことを考えたほうがいいのかもしれない。


 ただ、僕達の名前が読み上げられるような大きな儀式とかは、ちゃんと出るようにしたほうが波風立てずに済むのかな。

 数年後には、父の還暦の祝典や、兄の即位十周年式典があるだろうし、そういった節目の儀式では僕たち兄弟全員が参加して祝うことになる筈だ。

 新年の祝賀を不参加とか普通にやってたけど、十二歳になって成人した以上不参加とごまかすのも難しくなってくるだろうしね。


 既に僕の居場所はなくなっている可能性があるのは自業自得だけど、それでも宮廷に庇護してもらえるのは大きな魅力だし、いずれ追い出されるにしてもそれが後になればなるほど助かるわけだ。

 一応一級冒険者になれはしたけど、いまいち実感がないし、実際に依頼を受けたら化けの皮が剥がれるなんてオチになるかもしれない。

 選択肢を多めに残すためにも、最低限出来ることはやっておいたほうが良いね。


 儀式に参加するだけなら大きな手間でもないんだしさ。

 ……あ、ちゃんとした作法とかがほとんど見についていないから、そういうのはちゃんと身につけないといけないとは思うけど。


 あまり浮かれてもいられないね。

 改めて身を引き締めて、全力で精進しなきゃ。

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