第7話 繰り返される席
第7話 繰り返される席
その日、
俺は机を出す前から、
椅子の数を確認していた。
一つ、二つ。
レオンが持ち込んだ歪な椅子と、元からあった椅子。
昨日ついた泥の汚れは、すでに拭い去ってある。
準備は、それで終わりだった。
戦場は、今日も騒がしい。
剣戟の音、叫び声、
土煙が視界を遮る。
だが、
この場所まで来ると、
音は少しだけ丸くなる。
瓦礫が音を吸い込んでいるのか。
あるいは、この場所が持つ密度が、
外からの喧騒を拒んでいるのか。
理由は分からないが、
境界線は確かにそこにあった。
最初の男が来たのは、
俺が火を起こす前だった。
無言で近づき、
椅子を引き、
座る。
視線は戦場にも、
俺にも向かない。
ただ、
そこに居る。
少し遅れて、
もう一人が来た。
足取りは迷いがなく、
机の位置も、
椅子の間隔も見ない。
それでも、
同じ席に腰を下ろした。
名前は呼ばれない。
言葉もない。
それで足りているようだった。
俺はかまどに火を入れ、
水筒をかける。
湯が温まるまでの間、
誰も動かない。
かつては、
ここで何かを言われるのを
待っていた気がする。
だが今日は違う。
湯を注ぎ、コップを置く。
一人が手を伸ばし、一口飲む。
もう一人は、それを横目で見てから、
少し遅れて同じことをする。
鏡合わせのような、無意味で、かつ強固な秩序。
昨日の記憶をなぞるようなその動きに、
言葉が入り込む隙間はどこにもなかった。
言葉は交わされない。
それでも、同じ動作が、
同じ順番で繰り返される。
それを見て、
俺は机の位置を、
ほんの少しだけ整えた。
理由はない。
ただ、
そうするものだと思った。
しばらくして、
二人は立ち上がる。
合図はない。
戦場の方へ、
それぞれ戻っていく。
振り返る者はいない。
だが、
戻ってくることを
疑う必要もなかった。
椅子はそのままにしておく。
ただし、椅子の角度を数ミリだけ戻し、
彼らが座っていた痕跡だけを消した。
「片付け」ではない。
この場所は、常に「初めて座る場所」として、
死者や生者を迎え入れなければならない。
戦いは続いている。
数字も、
勝敗も、
ここには関係ない。
それでも、
今日もこの席は、
確かに埋まった。
それで十分だ。
俺は、
また次の時間に向けて、
何も変えずに立っている。
席が埋まる。
それだけで十分です。
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