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第3話 椅子に座る

第3話 椅子に座る


戦場は、相変わらず騒がしかった。


前に出て、剣を振るう。

倒して、また進む。

それを繰り返しているうちに、

時間の感覚が曖昧になる。


それでも、

視界の端に浮かぶ場所があった。


戦場の端。

長い机と、

その向こう側に立つ男。


昨日のことを思い出していた。


特別な会話をしたわけでもない。

助けられたわけでもない。

ただ、

そこに居ただけだ。


それなのに、

足は自然と向きを変えていた。


戦場の端は、今日も変わらない。


机は同じ位置にあり、

男は向こう側に立っている。


昨日、俺が去った時と、ミリ単位で変わらない位置に。

まるで、俺がいない間も、

その場所の時だけが止まっていたかのようだった。


武器は構えられていない。

こちらを呼ぶ様子もない。


こちら側には、椅子が一つ。

昨日の俺の体温など、

微塵も残っていないほどに冷たく、

清潔に整えられて。


俺は、机の前まで歩いた。


戦場の音は聞こえている。

逃げてきたわけじゃない。

戻ろうと思えば、すぐ戻れる。


男は、何も言わない。


見られている気配も、

無視されている感じもなかった。


ただ、そこに「在る」。

巨大な岩や、深い森がそこにあるように。


俺が何をしていようと、

この男の輪郭は決して揺るがないのだという、

不気味なほどの確信だけが伝わってくる。


俺は、椅子を引いた。


音が出るかと思ったが、

そうでもなかった。


一度だけ周囲を見てから、

腰を下ろす。


それだけだった。


何かが起きたわけではない。

世界が変わったわけでもない。


それでも、

戦場の音が、確かに遠くなった。


男は、相変わらず動かない。


だが、俺が座ったその瞬間に、

男の指先が、ほんの少しだけ机の端をなぞった。


「ようこそ」とも「座れ」とも言わない。


ただ、俺という異物が持ち込んだ「戦場の乱れ」を、

その指先一つで静かに平らげているようだった。


声も、説明も、

意味のある言葉もない。


机を挟んで、

俺と男が向かい合っている。


不思議と、

何も考えなくてよくなった。


それでも、

立ち上がる理由は、

すぐには見つからなかった。


俺は、椅子に座ったまま、

しばらくそこに居た。


戦場の端で、

戦いとは関係のない時間が流れていた。

戦いとは関係のない時間が、ここにはあります。

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