第21話 三人
第21話 三人
扉が開いた音で、主人公は顔を上げた。
「……え?」
先に声を出したのはエリスだった。
視線は一直線に、店の中央――新しいカウンターに吸い寄せられている。
「ちょ、ちょっと待って。前と……違うわよね?」
ソフィアは一歩遅れて中へ入り、言葉を失ったまま立ち止まる。
視線が滑るように、天板の端から端までをなぞった。
「……同じ場所、ですよね?」
主人公は何も言わず、いつもの位置に立ったままだった。
エリスが我慢できずに近づく。
恐る恐る、しかし好奇心は隠さず、指先でカウンターに触れる。
「なにこれ……冷たい。でも、嫌じゃない」
ソフィアは反対側から覗き込み、目を細めた。
「装飾はほとんどないのに……素材が、違います。かなり良い物です」
「……そうか」
主人公は短く返す。
それ以上は何も言わない。
「え、それだけ?」
エリスが振り返るが、返事はない。
そのとき、また扉が鳴った。
「……ふむ」
入ってきたノクスは、一目で状況を察した。
一瞬、空気が張る。
エリスとソフィアも、無意識に背筋を正した。
だがノクスは肩をすくめる。
「無駄じゃな。警戒しても仕方あるまい」
二人に軽く会釈し、カウンターへ向かう。
「初対面じゃが……まあ、知ってはおる。名も立場もな」
エリスは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに頷いた。
「……そうですか」
「で、このカウンターの話じゃろ?」
主人公を一瞥し、ノクスは続ける。
「こやつに説明を求めても無理じゃ。ワシが話そう」
語られたのは、ごく短い経緯だけだった。
削り、組み、残したこと。
それ以上の理由も、感想もない。
ソフィアは静かに天板を撫でた。
「……なるほど。質が高いのに、主張しない」
「貴族の道具じゃないわね。でも……」
エリスは笑う。
「正直、好きよ。落ち着く」
ノクスが腰を下ろす。
「座って確かめてみるがよい」
三人はそれぞれ椅子に座り、
新しいカウンターの感触を、確かめるように手を置いた。
「……いい仕事ですね」
ソフィアが言う。
「ほんと。これ、長く使えるやつよ」
エリスも続ける。
ノクスは鼻で笑った。
「老兵の手癖じゃ。褒めるほどのものでもない」
主人公は何も言わず、その様子を見ていた。
カウンターはそこにあり、
椅子は三つ、静かに並んでいる。
カウンターの角に、もう一度だけ指を当てた。
そこには、ほんの数ミリのズレもなかった。
戦場のどん詰まりに、ようやく「いつも通り」が根付いた。
だから俺は、今日もここに立っている。
――第一部・完
本作は、ここで第一部完とします。
当初は続編も考えていましたが、
舞台設定を見直した新作として
再構成することにしました。
この物語自体は、
その原型としてここに残します。
読んでくださった方、ありがとうございました。




