表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/21

第10話 増えたもの

第10話 増えたもの


二人が去った後、

戦場の端には、いつもの静けさが戻っていた。


違っていたのは、椅子の数だけだ。


机の前には、

元からあった二つと、

新しく運ばれてきた二つ。


合計、四つ。


どれも形は違う。

高さも、背もたれの角度も、微妙にばらばらだ。


俺は、新しく加わった二つの椅子の脚元を確認した。


ガタつきはないか。

長い机との水平は保たれているか。

不揃いな四つの椅子。


それが、今のこの場所の「容積」だった。


それでも、

並んでいると不思議と違和感はなかった。


俺は、その様子を少し離れた場所から眺めていた。


湯を沸かす火は、まだ消していない。

次に誰が来てもいいように、

水筒は半分ほど残してある。


特別な準備はしない。

ここでは、いつもそうだ。


椅子が増えた理由を、

俺は考えなかった。


誰が運んだのか。

なぜ二つなのか。

なぜ元の椅子に座らなかったのか。


どれも、重要ではない。


ここにあるのは、

「必要だったから増えた」という結果だけだ。


戦場の音が、遠くで鳴っている。


剣がぶつかる音。

怒鳴り声。

誰かが倒れる気配。


それらは、確かにこの世界の中心だ。


だが、

この場所には届かない。


俺は机の位置を、

ほんの少しだけ整えた。


椅子と椅子の間隔を測り、

誰が座っても邪魔にならないようにする。


それだけだ。


名前を呼ばれることは、ほとんどない。

役割を与えられることもない。


それでも、

ここに立っていると、

人が来る。


強い者も、

そうでない者も。


恐れられる者も、

名も知られない者も。


同じ机の前で、

同じ湯を飲む。


肺の奥にこびりついた硝煙が、

熱い湯気によって、一時的に押し流される。


俺が提供しているのは、そのわずかな「空白」だ。


それだけで、

少しだけ呼吸が楽になる。


俺は、それを維持している。


戦場の端で、

戦わない場所を。


椅子が増えたのは、

その延長だ。


誰かが座り、

誰かが立ち、

そしてまた、誰かが来る。


そのたびに、

必要な分だけ、場所が増える。


公式ログには残らない。

戦果にもならない。


だが、椅子が増えるたびに、

この場所が戦場から一歩ずつ遠ざかっていくのを感じる。


今日もここには、

確かに人が戻ってくる。


俺は湯の温度を確かめ、

次の一杯に備えた。


戦場の端。

椅子が四つ並ぶ場所で、

俺は、今日も立っている。

四つの椅子が並びました。

次の一杯(11話)を待ってくださる方は、

ブックマークで備えていただけますと幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ