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第1話 戦場の端

第1話 戦場の端


戦場だった。

だが、俺は剣を振らず、立ち止まっていた。


瓦礫と土煙。遠くで鳴る金属音。

叫び声はあったが、何を叫んでいるのかは分からない。

風が吹くたび、焼けた肉と鉄の混じった、むせ返るような死の臭いが鼻を突く。


俺は武器を渡されていた。

重さだけは覚えている。

だが、使い方は思い出せなかった。


何と戦っているのかも、よく分からない。

敵は確かにいるはずなのに、

姿をはっきり見た記憶がない。


周囲の兵士たちは、迷いなく前に出ていく。

勝つために。

生き残るために。


俺だけが、立ち止まっていた。

泥にまみれた剣を、そっと足元に置いた。

今の俺には、それはただの重い鉄の塊に過ぎなかった。


恐怖ではなかった。

勇気がないわけでもない。

ただ、前に出たところで、

自分が役に立つ場面が想像できなかった。


戦場の端に、

誰も通らない空間があった。


俺はそこに、

使われていなさそうな長い机を置いた。

そして、机の向こうに椅子を一つ置く。


理由はない。

ただ、ここには“戦う以外の時間”が必要だと思った。


俺は、長い机を挟んで立った。

向こう側には、空いた椅子が一つある。

座るかどうかは、相手が決めればいい。


呼び止める必要はない。

説明する必要もない。

立ち止まるかどうかは、相手の自由だ。


やがて、一人が足を止めた。


彼女は、剣を振るうより先に、椅子を見た。


鎧は返り血でどす黒く汚れ、その手には、もはや戦場に振るう相手がいないほどに使い古された大剣が握られていた。


名前も知らない。

だが、彼女がこの戦場の『絶望そのもの』であることは、見れば分かった。

だが、その瞳だけが、行き場のない渇きに……瞳が、震えているように見えただけかもしれない。


彼女は、ただ無言でその汚れた大剣を机の傍らに立てかけ、ぎしりと音を立てて椅子に身を預けた。

その瞬間、彼女を覆っていた凄まじい殺気が、雪が解けるように消えた。


言葉は交わさなかった。

それでも、その場所には

「戦い以外の時間」が流れた。


俺はそれを確認して、

机の位置をほんの少しだけ整えた。


指先で表面の塵を払い、四隅が地面と水平であることを、

数ミリの狂いもなく確認する。

戦場という混沌の中で、そこだけが唯一、正しく整えられた世界だった。


公式ログには、きっと残らない。

だが、この戦場には確かに必要だった。


だから俺は、

今日もここに立っている。

公式ログに載らない物語を、

最後まで見届けてくださる方は、

ブックマークでその意思を示していただけると幸いです。

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