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第31話◇ペンネームはアカウント名とは違うんです

 社会人の仲間入りをして以降、都合が合った金曜日の夜はかなめと会うことになっている。

 今日はかなめが私の家に遊びに来ていた。


 外食も悪くないけど、二人で作ったり買ってきたものを持ち寄ったりして、どちらかの家で食べて飲むのも面白い。


 メインは二人で作ったキノコとえびと長ねぎのアヒージョと、私が買っておいたローストビーフが乗ったサラダ。


 そして今回はかなめが瓶入りのサングリアと、フルーツがたっぷり入ったちょっとお高いデパートのゼリーを買ってきたから、デザートセットはそれだ。


「そうだ。見たよ。小説、ランキング入りしてたね、すごいね!!まだ私、最新まで読めてないけど」


 私はグラスの底に氷がわりの冷凍ベリーをカラカラと入れつつ、かなめに話しかける。

 かなめは自分が書いた連載小説を定期的に小説投稿サイトに投稿しているのだけれど、その小説「唯我独尊クールな龍王様のラブコメは、残念ながら少し間違っています!!」が昨日からランキングでわりと上位に入ってきているのだ。


「あ、あー、うん。ありがと」


 これはここ数カ月の努力が実って嬉しいだろうな、と思って私は話を振ったのだけれど、意外なことに、当のかなめはあまりテンションが高くなってはいなかった。

 ゼリーが入った紙箱を淡々と開けている。

 あれ?あんまり嬉しくなさそう……?


「そういえば、結局、すばるんがさゆみに連絡取りたがってたやつ、何だったの?……どっちがいい?私はいちごかな」


 するりと話題は別の方向に反らされる。

 そして瓶を持ち上げると、かなめは二つのグラスにサングリアを満たした。


「あー。あれね。……うーん、じゃあ私、桃にする」


 紙箱の中に入っていたのは、いちごのゼリーと桃のゼリーだった。

 何となく、今日は桃の方を選択する。

 かなめと争ってまでいちごがいい!!と言い張る気もなかったし、普通に桃の方も美味しそうだった。


 かなめ、どうかしたのかな?と思いつつも、ひとまず、私はそのまま先日の月浦さんとのことを報告する。


「月浦さんのnoteのカメラ記事のさ、『動きがある静止画』ってコメントしてたじゃない?私。月浦さん、その辺りをテーマにした写真集を、今度の文学フリマで出したいんだって。それで頼まれて、CM用のnote記事やXの管理とか、マネージャーみたいな仕事、することになっちゃった」


 伝えると、意外だと言いたげにその目を丸くしている。


「マジで?珍しいじゃん」

「うん。なんか、流れでそういう感じになって。それで、月浦さんとまた直接会うかも」


 実は、次の約束が既に決まっていたりする。

 出不精の私にしてはかなり異例だと思う。

 こんなに未来の予定がポンポンと決まっているのはめったにないことなのだ。


「そっかぁ……さゆみが返信してたあのnoteのコメントで、すばるんの写真集が……。うん、いいじゃん!!」


 かなめは少し、感慨深そうな顔つきになって、うんうんと頷いた。

 自分の小説の結果よりも喜んでいるように思えた。


「さゆみの言葉には力があるって、ちゃんと周囲に伝わってて、嬉しい」


 だから、私は「何でこの子は、そこまで私のことを買ってくれているんだろう」と考える。


 月浦さんの『動きがある静止画』についての話だって、たまたまそう思っただけで、タイミングが合った結果、彼の中でそれがクローズアップされただけだと思うのに。


 そしてやっぱり、今日のかなめは元気がなさそうに見えた。


「ねぇ。さっきから、気になってたんだけどさ。かなめ、何だか今日、元気なくない?」


 やっぱり完全にスルーすることはできなかった。

 私は改めて確認してみる。

 途端に、かなめの視界がフラフラと宙に漂った。

 気まずそうに。


「あのね、ランキングのあの作品。あれって、さゆみと話していたネタ、使っちゃったの!!ごめん!!」


 何だろうと不安になっていた私だったけれど、勇気を振り絞るような素振りの後にかなめの口から出てきたのは、この台詞だった。

 なので、私は思わずキョトンとしてしまう。


「え、私と話してたネタ?」

「ゴールデンウィーク頃に電話で話してた時にさ、さゆみが言ってたでしょ。ヨアキムが正式に龍王として龍と契約するために訪れた街で、ヒロインのヘルガちゃんとデートしていたら、例のごとく側近のアードゥンくんがヨアキムの変なラブコメ発想に巻き込まれて……って展開、面白そう~って」

「ああ、あの話ね」


 言われた通り、たしかにその頃、かなめとの長電話中にその話をして盛り上がった記憶があった。


「人からいい評価をもらうたびに、あれはさゆみの意見だったのに、って思って。でも、今さら言い出せなくて。盗作したみたいな……そういう感じがして」

「……そっかぁ」


 その「ちょっと豪華なゼリー」も、もしかしたら、申し訳なさに釣られてのグレードアップだったのかもしれない。


「でもさ。ネタは私が口走ったのかもしれないけど、実際に書いて小説の形にしたのはかなめじゃない?ネタだけ思いついても私は小説、書けないんだし」


 けれども、結局「作者」は私じゃない。

 かなめだ。

 そう思ったから、私は気にする必要はないと伝える。


「設定やストーリー展開の細かいところ考えるとか、そんな込み入ったこと、私にはできないもん。あれは、実際に色々考えて文章に整えて書いたかなめのものだよ」

「でも……あのネタは、私、さゆみが言うこと全部メモってた。ほとんどそのまま流用してる」

「気にすることないと思うけどな……。たまたまランキングに載っちゃったから、気になるのかもしれないけど」


 それでもかなめは納得できないようで、目の前で頭を抱えるようにされてしまった。

 何か考え込んでいるようだ。


「……そうだ、私もさゆみの名前、載せていいよね!?月浦さんの本がいけるなら、私の本にだって!!」


 が、次にバッと顔を上げたかなめは、さも希望に溢れたかのようにそんなことを言い始めた。


「えっ、私の名前、載せるの!?てか、本?また本出すの?」

「すばるんが出るっていうその日、私も文学フリマ申し込もうか迷ってたの。どうしようか迷ってたけど『ざんまち』のWEB再録本、この日に出すよ。その表紙と本文にも『原案協力』でさゆみのペンネームを入れる。投稿サイトの方にもあらすじのところに追加する」


 もうかなめの中では「それで決まり!!解決!!」となってしまったらしい。


「だからさゆみ、締切日までに間に合うように、自分のちゃんとしたペンネーム、考えてよね!!私が登録時に適当につけたアカウント名の『さゆ』なんかじゃなくってさ!!」

「ええっ……!?ちゃんとしたペンネーム!?」


 さっきよりずっと晴れやかな顔になったと思ったら、かなめは急におかしなことを言い出している。


 待って、まだ一口もサングリアは飲んでないのに。

 まるで酔ってるみたいなことを言ってない?かなめってば。


 ついこの間まで、たったひとつのnote記事のネタも思いつけずに四苦八苦していた人間なのに、本に掲載されるペンネームだなんて。

 あり得ないでしょ!?


 ただ、そう思いつつも「これでかなめの笑顔が戻るんだったら、まぁいいかな……」という気持ちが勝ちつつあったので、私はもっと前向きに、自分の正式なペンネームについて考えることになったのだった。







「記事タイトル:文学フリマin東京、出ます!!」




 今回は小説の更新じゃなくて少し短い記事なんですが、お知らせです!!

 今度ある「文学フリマin東京」、迷ってたんだけど、参加することにしました~!!


 フォロワーさん行く人多いみたいだし、私もサークル参加します!!

 新刊は投稿サイトで連載中の「唯我独尊クールな龍王様のラブコメは、残念ながら少し間違っています!!」、略して「ざんまち」の予定です。

 まだ連載中ですが、イベント当日までには第一部まで完結している予定です!!


 この話は原案協力の親友がものすごく、色々ネタになることを言ってくれてそれでネタがとめどなくどんどん出てきた作品なので、彼女がいなかったらできてないやつです。

 最近のランキング入りも、きっと彼女あってこそ。

 ありがとうね、さゆ~!!


 そんな彼女の魅力が、もっと他の人にも伝わるといいんだけどなぁ、と長年、思ってました。

 でも、最近分かってくれる人も周囲に増えてきたのでよかった~!!嬉しい!!


 長時間付き合っていくごとに、するめみたいにジワっと味が出てくる子なので、これまであまりすぐには良さが伝わってくれなかったんだよね。


 あれ、いつの間にか自分の作品のCMじゃなくて親友の方推してた。笑。

 とにかく、今後とも「ざんまち」と、私の親友・さゆをよろしくお願いします!!






【田所かなめ(ペンネーム・神原枢)の記事より抜粋】

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