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第17話◇スキなやつ、でした

 そういうわけで、それから数日、私は自己紹介の文面を考えることにしたわけだけど。


 意外と自分のことを考えるのは、難しい。なので、検索して引っかかってきたnoteの「自己紹介テンプレート」を流用することにする。


『名前……さゆ

 SNSアカウント……今はnoteのみです』


 これらはただの事実でしかないので、すぐに書き終わる。


 まぁ、名前はアカウントの作成時にかなめに登録されたまま。

 SNSはいくつか登録しているけれど、どれも放置。

 動かそうとしているのはnoteのみ、というだけだ。


 問題はこの後だ。


『趣味、好きなこと……

 今の仕事・取り組んでいること……

 どんなnoteを書いているか・書きたいか……』


 色々考えた結果、こうなる。


『趣味、好きなこと……水滴の動画。最近は、インスタントじゃない豆から淹れたコーヒーは、好きかもしれません』


 先日見た「リフレ」のCMといい、月浦さんが氷水を飲んでいた時のことといい、私は意外と「水滴」が好きなんだと思う。

 どちらもついマジマジと見てしまっていた。


 水滴の動画が好きなことを、補足としてなるべく詳細に書く。

 ここ最近は、つい「水が流れている映像」を検索して見てしまうことも含めて。


 そしてコーヒーは、自分からお高い店に行くほどではないけれど、何となくコンビニで買うものは数十円足して「ちょっといいやつ」にしてみたりしている。

 あの店の味には、絶対に敵わないのだけれど。


 何にしろ、どちらも月浦さんが絡んでいるので、彼の存在だけは確実にしっかり伏せて、私は記事を書く。


『今の仕事・取り組んでいること、どんなnoteを書いているか・書きたいか……何か、人の心に届く記事を書けるように、書ける人になりたいです』


 最後の二つは、私にとっては、ほぼ同じ感じで困ってしまう質問だった。

 noteに対してどう取り組んでいくか。

 まさにそれを探している最中なのだ。


 まだこれくらいしか言えない。

 今の私には。


 私はこれらの自己紹介の内容を本文としてページに書き込む。

 タグについては「♯自己紹介」と一つだけ追加して、ぽちり、とボタンを押して。


 こうして、私はついに、初めてのnote記事を書き終えた。

 ちゃんとした記事はまだ何一つ書いたとは言えない状態だけれども、確実に一歩は進んだのだと、ホッと息を吐く。


 これでもう一仕事終えたつもりだった。

 ただ、いつの間にか通知が来ていた。

 誰かに反応された通知らしい。


 まず、唯一フォローしているかなめからのスキ通知。時間差でシンヤさんのフォロー、そして次に届いたこれは……。


「あ。AKARIさんだ、これ」


 コスプレという文字と衣装の写真が視界に入ってきて、私はそうだと理解する。

 かなめに教えられたに違いない。


 すぐさま、シンヤさんとAKARIさんにフォローをし返すべくスマホを操作していると、また通知があった。


 今度はフォローに加えて「さゆの自己紹介」にスキしました、という通知だった。

 これは……月浦さんだ。


「意外と、反応があると嬉しいものなんだなぁ……」


 今、私のフォロワーのリストにはかなめに加えて新規の三人分の名前が並んでいて、「いいな、このつながった感じ」と思った。


 珍しく、私は素直に「いいな」と思っている。

「SNSって面倒臭い」ではなく。


 不思議だ。

 リアルでご近所さんと挨拶するのと似た感覚がある。

 もう「ネット上の不特定多数の他人」じゃなくて、「先日会って話して知っている人」になっているからだろうか。


 この時点で、私は自分が三人に対してある程度の信頼感を抱いている事実を自覚した。

 出会って間もないのに、「あの人たちが反応してくれたんだ」と思うと、少しドキドキする。


 私はポンポンとスマホ画面をタップしながら、みんなのプロフィールや記事の題名を覗いてみる。


 そうやって眺めているうちに、月浦さんが新しく記事を上げたようだった。

 題名は「♯最近ハマっていること」で一枚の写真が上がっている。


 覚えがあるものが写っていた。

 月浦さんが作った例のポストカードセットの横に、コロリとひとつ、ピンクの個装に入った飴玉が寄り添うように置いてある。

 それはイベント会場でコスプレ中の月浦さんに私が握らせたものと同じだ。


 察した私は、自分のバッグの中の、残っている飴玉を取り出してみる。

 確かに同じパッケージだった。


 それら二つのアイテムを照らす淡い光は、あの純喫茶の間接照明の、「絶妙に落ち着く、あの薄明るい感じ」を思い起こさせる。

 そこには、文章が添えられていた。

 ただ一行だけ。


 ――「好きなやつでした。」と。


 それは、私が「リフレ」のCMを見ての感想を口走った時の言い回しだ。


 イベントに行って出会い、ポストカードを売り、飴を手渡し、水滴の映像や写真の話をして、この写真と同じ明るさを思わせる喫茶店に行った。

 ここに隠されている情報の何もかもが、私たち以外の他の誰も知らない話に違いない。


 匂わせ的な写真。

 つまり……月浦さんは、それを「私に言っているんだ」。


 あの日、彼に渡した飴は三個。

 二個分は既に食べたからもうそこにはなく、一つだけ。

 そしてこれは、味の感想だ。


 ただ、単純に味だけではなく、他の意味も含まれているように感じた。

 少なくとも、彼はそうやって私と過ごしていた時間を悪いものとは感じてなさそうだと、認識しても良さそうだった。


「そうですか。だったらよかったです」


 そういう意味で、私は本文の下にあったボタンを押してみる。

 ハートマークのそれを。

 すると、イラストと共にメッセージが表示される。


『スキしていただきありがとうございます!』


 いえいえ。


 私は手に取った飴をバッグに戻そうとして、けれども、やっぱり口の中に入れることにした。

 広がるいちご味。


 もうフォローし合っているし、かなめも仲がいいみたいだし、月浦さんとはまたお話しする機会があるかもしれない。

 ということは、失礼なことを言っちゃわないように、もう少し彼のこと、予習しておいた方がいいのかな……。


 私はイベントで怒らせた少女のことをふと思い出す。

 あの時みたいに、自分では気づかないうちに人をイラッとさせるようなことを、月浦さんにもしちゃっていたのかもしれない。

 画面に表示されたこれらの反応を見るに、気を損ねるみたいなことには運良くならなかったから、今回は助かったっぽいけど。


 正直、「リフレ」の話を最初にした時、私が次に何言うか、警戒してビクッとしてたよね。

 怖がらせちゃってたよね……。


 今さらかもしれないと思いつつも、私はもう少し、彼の過去――「東雲洸」についてを、調べてみることにした。

 そして、検索に引っかかってきた画像や動画に目を通す。


 普段着のような衣装、公園のような場所でリラックスした笑顔で肩を組み合う、東雲洸と如月宵悟の写真。

「リフレ」の時よりも少し成長していて、今の月浦さんに近い。

 高校生くらいの年頃の彼らだろうか。


 他には少年5人で写っている、無邪気な笑顔の写真……あの「リフレ」のCMよりはずっと幼い姿だけれども、このセンターにいる二人は東雲洸と如月宵悟に間違いない。

 そこにも「SOLUNAR」と小さくロゴが入っている……。


「もしかして、『SOLUNAR』は、元は5人組グループだった……?」


 ただ、次に見た動画は2人組のものだ。

 5人組の写真の時よりは成長した、しかし「リフレ」の時よりは幼い、そんな東雲洸と如月宵悟。

 同じようなデザインだけど少し違う、というさもアイドルらしい華やかな衣装の2人組が、笑顔で歌って踊り出す。


 様々な色や方向からの照明に照らされて、黒の布地に銀の刺繍や、メタルな金属の飾りがキラキラと輝いていた。

 普段アイドルを追いかけていない私にとってはなおさら、そこはこれまで見たことがないほどの、眩しい光に溢れていた。

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