表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/48

第9話◇ゆるふわお人形様、惚けた直後に鬼と化す

「すみません」


 お客さんがいないうちにと、シンヤさんとかなめと三人で在庫の一部を別のイベントに発送するための箱詰め作業をしていると、ポスターの壁の向こうから女の子の声が響いた。


 シンヤさんは宅配伝票に書き込んでいて、かなめは段ボールの横にしゃがんで在庫を数えている最中だったので、ちょうど手が空いた私が対応する。

 はい、と応えてその子の前に立った。


 パーマがかかった肩までの髪の毛がふわふわと柔らかそうな、可愛いらしい女の子がそこにいた。


 一瞬「こういう子がシンヤさんのちょっとえっちな青年漫画を買うの、珍しいな」と思ったけれど。


 彼女のその両目が実際に捉えていたポスターはイラストのものではなくて、空の写真の方だった。

 食い入るように紫から赤へのグラデーション部分を見つめている。

 それは、まるで一目惚れでもしたかのようだった。


「この、ポストカードセットを……」


 どこか夢見がちな声で、震える指先でポスターを指さす。

 それで、どうやらこの彼女のお目当てはシンヤさんの漫画ではなくて、例の彼のポストカードの方らしい、と分かった。


「一セット五百円ですので、五百円のお返しになりますね」


 私は千円札を一枚受け取って、おつりの五百円玉を革製のコイントレーに置く。

 そして置き場からポストカードの在庫を手に取り、彼女に差し出す……接客用の笑顔を作って。


 けれど、突然、彼女はじろりと私を見返した。

 強い怒りの表情としか言えない顔で。

 そのキュートそのものの惚れ顔と鬼のような怒り顔のあまりのギャップの大きさに、思わずポストカードを取り落としそうになる。


 少し乱暴な手つきで手早くおつりとポストカードを受け取ると、その子はパッと身をひるがえして去っていった。

 ありがとうございました、と口走る隙さえも、私には与えられなかった。


「え……。ねぇ、かなめ、今の私、失礼な売り子だった?」


 不安になってきて、私は背後のかなめに振り向いて訊いてみる。


「失礼?私はずっと手元と段ボール見てたから声しか聞こえてなかったけど、全然、そんなことなかったと思うよ……?」

「単に機嫌悪かったとかじゃね?むしろ俺が対応するより全然丁寧だし」


 かなめだけでなく、シンヤさんも首を傾げていた。

 二人揃って、特におかしい対応とは感じなかったようだ。


 ええー……だったら、何なんだろう?


 結局、その後しばらく三人で話したけれども、彼女を怒らせてしまった理由は分からず。

 シンヤさんも気にしなくていいと言ってくれたので、私はひとまずしっかり反省はして、頭の片隅に置いておくことにした。

面白いと思って頂けましたら★~★★★★★で評価お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ