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第2話:三組の様子

「……どうだ?」

 烏丸は廊下を歩きながら、自らの斜め後ろを歩く、長い髪をアップにまとめ、眼鏡をかけ、パンツスーツをぴちっと着こなしている女性に問う。

「……各自、東京への引っ越しなどは滞りなく終わりました」

「それは結構、環境が安定しないと、パフォーマンスにも影響するからな」

「それとは別に……」

「なんだ?」

 烏丸が振り返る。女性が眼鏡の縁を触りながら、言い辛そうに口を開く。

「今回の決定に戸惑いが多く見られているようです」

「まあ、それも無理もないな」

 烏丸がフッと笑う。

「まだそれぞれの顔合わせは数回ほどですが……話し合いなども平行線のようで……」

「しかし、辞退者はいないのだろう?」

「今のところは……」

「ふむ、やる気はあるようだな……〝食らいつく気〟と言うべきか……」

「差し出がましいかと思いますが、ここは社長自らお声がけをした方が……」

「もちろん、そのつもりだ……失礼するよ」

「!」

 烏丸がある一室に入ると、風の弾くギターの音色に合わせて、リズミカルに舞い踊る夏烈の姿があった。烏丸が笑みを浮かべる。

「ほう……」

「おはようございます」

「おはようさ~社長さん」

「ちょっとカツレツ!」

 風が逆立ちの状態のまま挨拶する夏烈を注意する。

「ああ、構わんよ。体を動かしていないと気が済まないタイプなんだろう」

「へへっ、よく分かってらっしゃる♪」

「カツレツとは?」

「あだ名だからそう呼んでくれと……」

「ほう、距離は縮まっているようだね……」

「まあ、とりあえずはそういうところからかなと……」

「ギターに夏烈のダンスを合わせるミクスチャーアイドル……気に食わないかと思ったが」

「懸けていたバンドを解散することになって上京しました。わたしにはこれしかないです」

「ふむ、音楽性に関して相談があれば、遠慮なく言ってくれ。知人のミュージシャンは多い」

 烏丸は風に声をかけて部屋を出る。

「若下野さんは、組んでいたバンドがメジャーデビュー寸前まで行っていたようです」

 女性が告げる。

「それはレコード会社の知人から聞いた。博多のライブシーンを大いに盛り上げているガールズバンドがいると」

「諸事情で解散することになってしまったと……未確認ですが、大学生中心だったので、一般企業に就職したいメンバーと若下野さんの間で温度差が生まれてしまったとか」

「方向性の違いというやつか。よくある話と言われれば、よくある話だが」

「しかし、南さんがこのオーディションを受けたのは意外でした。いわゆる芸能界での活動には興味がないものかと……」

「ダンスの世界大会をいくつも制してきた天才……彼が来てくれたのは僥倖だったね。なかなか気分屋のようだから、その辺は上手くコントロールが必要だろうな」

「この二人は組ませてみるのはなかなか面白いかと思います」

「そうだろう?」

「ですが、問題は……」

「分かっているさ……失礼……」

「お、おはようございます!」

「おはようございます!」

 烏丸が部屋に入ると、向かい合って重苦しい雰囲気を漂わせていた雪と冬光がすくっと立ち上がって挨拶する。

「ああ、いいよ、座ってくれたまえ」

「失礼します……」

「ピアノが得意な冬光、歌手志望の雪、良いケミストリーが生まれるかなと思ったが……」

「……」

「………」

「お互いに気に食わないのかな?」

「なんというか……」

 雪が長い銀髪を指先でくるくるとさせる。

「秘密を告白し合うのはどうだい? どちらもさらけ出すんだ」

 烏丸に促され、冬光が口を開く。

「……僕は36歳だ」

「えっ⁉」

「どうしてもこのオーディションに受かりたいからサバを読んだ……」

「わ、私は32歳のシングルマザーよ……子供の為にも絶対に成功したい」

「ええっ⁉」

「どうりで二人とも大人の深みを感じさせると思った……結構じゃないか。健闘を祈る」

 秘密の告白に驚き合う二人。烏丸がそれを見ながら部屋を出る。

「~~♪」

 部屋から音楽が聴こえ始める。烏丸が微笑みながら顎をさする。

「うん、良いピアノだ」

「……年齢詐称はよろしいのですか?」

 女性が眼鏡をクイっと上げながら問う。

「この業界、一つや二つサバを読むなんてそう珍しいことじゃないさ。不問に付すよ」

「分かりました……」

「それよりも、雪の……」

「お子さんに関してはシッターを手配してあります」

「それは結構だ。心置きなく活動に打ち込めるね」

「ええ」

「ただ……家族の時間も大切にしてもらいたいな。レッスンなどは早い時間に終わるように調整しておいてくれ」

「かしこまりました」

「それと、マスコミ対策だけど……」

「高上山さんのみならず、合格者全員が活動に集中出来るよう、手は打ってあります」

「さすがだね、さてと……失礼するよ」

「あ! おはようございます!」

 烏丸が部屋に入ると、月が元気よく挨拶をする。

「おはようございます‼」

 月よりも大きな声で秋明が挨拶をする。

「うっさいねん! そんなドスの利いた声で挨拶すんな!」

 月が片耳を抑えながら突っ込む。

「そ、そうかのう?」

「そうや! どこの組事務所かと思うたで⁉」

「ワシはカタギじゃ!」

「どこのカタギがそんな真っ白いスーツを着んねん!」

「ふふっ……」

「い、いや、社長さん! 笑うてないで! なんでこいつとデュオなんですか?」

「……君たちはいわゆる『V系』アイドルだと思ってね」

「V系……確かにウチはなかなかのヴィジュアルやと自負しています! 分かりました!」

 月と秋明がレッスンに戻る。

「『Ⅴarietyバラエティー』系のつもりだったんだが……」

「……西さんは?」

「決まっているだろう? あの風格は完全に『Vシネ』系だよ」

 女性の問いに対し、烏丸が微笑を浮かべる。

お読み頂いてありがとうございます。

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