Ep. 9: 虚構の弾丸、真実の硝煙3
蒼のMVアグスタが砂埃を巻き上げながら、瓦礫だらけの廃墟を猛スピードで駆け抜ける。
背後からはJudasの無人ドローン堕天使が鋭い爆音を響かせて追跡していた。
「……甘く見るなよ!」
蒼はバイクの右手グリップを握り込み、瞬時に腰のホルスターから器用に左手で愛銃ガバ・コンバットカスタムを抜いた。
右手でハンドルとアクセラレータをキープしながら、腰をひねりながら左手で狙いを定める。Wilson combat custom改が.45ACPを吐き出す。
銃口から吐き出された鉛の咆哮が、世界に鋭い句読点を打つ。
「ヴォンッ、ヴォンッ!」と響くその音は、
怒りとも、祈りともつかない――それでも確実に“生”の感触を刻み込む。
銃声が仮想空間にリアルな衝撃波を伴いながら吠えると、ドローンの装甲が閃光を放って損傷する。
しかし無人機は制御を乱すことなく、爆撃用の小型ミサイルを投下してきた。
「くそっ! 手加減なしの攻撃ばかりじゃねえか…!」
バイクを大きく右へ倒し、ギリギリのところで敵の弾幕をかわす。
頭の中に、かつてのもう1台の相棒が、そうアグスタとともにじっちゃんから受け継いだ、マシン。そいつが鮮明に浮かんだ――あの低く鋭いフォルム、ロータスヨーロッパの存在感。
「ヨーロッパの軽量ボディと研ぎ澄まされたハンドリングなら、こんな追跡劇もまるでお遊戯みたいに楽しめたかもしれねぇな…」
微かに口元がほころび、だが視線は鋭く、心は闘志に燃えている。
誰に言うでもなく、虚空に呟いた。
「けど、今はこいつだ――350CCのOHVツインのパワー。
このガソリンの匂いと鼓動こそ、俺の真の武器。狭い街の隙間を縫い、瓦礫の迷路を駆け抜けるなら、やっぱりこいつにしか頼れねぇ。俺の血と魂を刻み込んだ相棒だからな…!」
舗装が崩れた狭い路地へバイクを滑り込ませ、堕天使を振り切ろうとしたが、次の瞬間、背後からもう一体の敵が姿を現した。
――闇から現れたのは、漆黒の影。
全身を黒の強化装甲で包んだ、冷徹な殺戮装置。
AI制御の強化型使徒――普及モデルとは比較にならない重装型。
右腕には一体化したサブマシンガン、左腕にはシールド兼ブレードユニット。
光学センサーがこちらを捉えた瞬間、鋭い電子音が鳴り響く。
蒼は一瞬、肩をすくめて吐き捨てた。
「……またかよ、コイツら。今度はちょっとばかしグレードアップってわけだ」
すでにバイクを降りていた。
背中に斜め掛けしていたスリングを引き、もう一丁のサブマシンガンを前に構える。
左手にはいつものガバメント、右手には――B&T MP9。
9mmのコンパクトマシンピストル。
軽量ポリマー製、スイス製の洗練と狂気が融合した獣。
フルオートモードで吐き出される毎秒15発の殺意――
ただし、このVR空間では、反動さえ“痛み”として脳に刻まれる。
蒼は冷笑を浮かべた。
「ガバとMP9……この組み合わせなら、死神だってワルツを踊るしかねぇ。
跳ねる銃身も、削れるマガジンも、俺には子守歌だよ――」
瞬間、蒼は引き金を絞った。
ロングマガジンから弾丸が一気に吐き出される。
炸裂音とともに、瓦礫が爆ぜ、火花が舞う。
狙いは、黒装甲のセンサー部。
ホロサイトのレティクルが静かに目標を捉えた。
ワンショット、ツーショット。
蒼の右手が火を吐き敵の動きを制圧、左のガバがそれに続き正確に的を射貫く。
無駄のない、二重奏。
「トリガーは絹のように軽い……だが命は、鉄より重い。こいつらはちがうがなっ」
光学センサーが砕け、敵は硬直し、重力に従って倒れ込む。
蒼は一瞬だけ、無音の世界を感じ取った。
自分と銃だけが、この空間の支配者であるという錯覚。
……が、それも束の間。
背後から、堕天使の急襲。
空が赤く染まり、爆風が背中を炙る。
蒼は振り向きもせず、再びバイクへ飛び乗った。
「どうよ。まだまだ、俺のターンは終わっちゃいねぇ」
アクセル全開。
バイクのエンジンが咆哮し、闇の路地を一気に突き抜けていく。
爆風と閃光の中を駆け抜けるその背中には、静謐な冷徹と、揺るがぬ信念が刻まれていた。
そしてその瞳は、もう次の敵を見据えていた。