八話
「お主の予想は正しい。ただ、一つ補足すると、千里である意味は他にもある。お主は優秀じゃ。度胸があり、頭が回る。そのような人材を放ってはおけない。わらわの家、華狐の者になれ。大学でも大学院でもどこにでも行ける。もちろん、バイトなどしなくて良い。まあ、交流会やパーティーの際は必ず同伴してもらうが、それも年に数回の話。お主、憧れておるんじゃろ? 支配者階級に」
どこから出したのか、実に麗しい扇子で光姫は口を隠す。見惚れるような美しい所作だった。十二単も相まって、タイムスリップしたかのような錯覚に襲われる。
固まった思考が徐々に解け、頭が回り始めた。
「遠慮します」
光姫は眉根を寄せる。
「あなたが仰ったように確かに俺はそういったものに魅力を感じます。誤解を恐れずに言えば、国を動かせるような立場に就きたいし、使えきれない程の金や財産が欲しいし、いつだって自由に過ごす生活がしたいです。ですが、それは自分の力で手に入れてこそ。他人にお世話してもらって手に入れた力は要りません」
「潔いな」
断った千里に対しての怒りを微塵も感じさせることなく、光姫は艶笑とともに相槌を打つ。
(動揺を隠しているのか、この展開すら計算のうちなのか)
どちらにしても大したものだと思った。千里が今までに接してきたどんな女子よりも好感が持てる。こんな状況でなかったなら、素直に称賛できたのだが、生憎そうはいかない。