五話
「お主は」
光姫が口火を切ったことで空気が引き締まった。さっきまでの和やかな雰囲気が消え、緊張感が増す。光姫が老獪な財界人に見えた。千里は落ち着くよう自分に言い聞かせ、光姫と対峙した。
「どう思う?」
「どう思う、とはどういう意味でしょうか?」
不信をあらわに尋ねた千里に光姫は余裕の微笑を浮かべる。
「わらわがお主を呼んだ理由」
(下手なことを言ったら揚げ足を取られる。言質を取られないよう曖昧な発言に終始するのが正解?)
場の雰囲気は既に商談や尋問と言われる類のそれを醸し出している。光姫はまだ着任して少ししか経っていないとはいえ華狐家の当主だ。華狐家が国から任せられた役割は公安。重圧も責任も千里の想像を絶するものだろう。光姫は千里より、見識も広く、経験も多く、口も巧い。千里は光姫を警戒し、熟考する。
(いや、相手は公安の人間だ)
光姫がどのような仕事をしているかを千里は詳しく知らない。しかし、公安が国全体の治安や国家体制に影響を及ぼすような大きな事件を扱っていることは知っている。その対象となるような団体には後ろめたい者が多いはずだ。そういった者は自ずと口を閉ざす。
(なら、ここは敢えて言おう)
千里は勇気を振り絞って沈黙を破った。
「華狐様のお考えは俺にはわかりかねますが、一つの仮説なら持っています」
「ほぉ、どんな?」
光姫は愉し気に尾を振る。