三話
「何これ?」
登校し、提出物も一通り出し終わったところで、千里はそれの存在に気づいた。一見、何の変哲もない白い封筒。差出人を確かめるために千里はそれを裏返した。
「え!」
驚いて思わず二度見する。クラスメートから好奇の視線が集中していることに気づき、慌ててそれを机の中に押し込んだ。折れ曲がっていないか心配だが、その確認は後回しにした。
(なんで狐姫様が?)
頭の中を華狐光姫の四文字が埋め尽くす。脳裏をよぎったのは、今まで千里が得た彼女に関するあらゆる情報だった。継続的に思考を繰り返し、授業中も、自分に思いつくあらゆる可能性を模索した。やがて一つの想像に行き着く。
(根拠がないな)
否定するもその可能性を捨てきれず、千里は一層思い悩む。逡巡しているうちに放課後となった。手紙の指示に従い、千里は生徒会長室に向かった。生徒会長室前の扉でしばし立ち淀む。
生徒会長室はその名の通り生徒会長のための部屋である。生徒会室は別の場所にあり、生徒会の活動はそちらで行われる。
千里は生徒会長室に入ったことがない。これは何も千里に限った話ではない。生徒会長室には彼女の許可がなければ誰であっても入ることができない。
今のところ、入室の許可が下りたのは三人。生徒会副会長の猫崎鈴と中等部の一年生でありながら生徒会庶務を務める栗鼠森ほのか、そして、千里である。前二人は生徒会役員で神獣だが、千里は違う。
正直、言って今にも逃げ出したかった。しかし、そうしたところで状況が好転することはない。むしろ悪化することが確実だ。
意を決して千里は扉をノックした。