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狐姫様の婿  作者: 尾見環
第一章
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三十八話

 生徒会長室の扉を叩いた。許可が下され、千里は入室する。

「久方ぶりじゃな」

 近くで見る光姫は相変わらず美しかった。此の世のものとは思えない美貌は寸分の陰りもなく、蠱惑的な匂いが仄かに香る。薄紫の地に散らばった睡蓮の訪問着。彼女の瞳と同色の帯は色こそ華やかなものの質素な一品で千里が未だ知らない光姫の魅力を引き出していた。

「お久しぶりです」

 光姫の勧めを受け、椅子に腰を落とした。光姫は千里の対面に座る。見惚れるような優雅な仕草だった。千里は負けじと弦のように背を伸ばす。意味もなく微笑んで光姫と視線を合わせた。微笑はこと光姫との対談においては勝者の証だった。

「時間を取ってすまぬ」

 開口一番に、光姫が発したのはそれだった。謝罪というには上から目線なそれ。しかし、不思議なことに千里は腹正しくはなかった。光姫の話し方が元々特異だからだろうか。言葉は浮世離れした雰囲気の彼女にひどく似合ってすらいた。

「お気になさらず。受験間近を避けてくださったのでしょう。遅かれ早かれ来ることなら早めに済ませたい性分ですし、むしろ感謝したいです」

「夏以降も婚姻に纏わる催事には事欠かないが」

「仕方のないことですので。具体的には何があるのでしょう?」

「結婚式。身内向け披露宴。対外的な披露宴。千里の引っ越し。挨拶回り。新婚旅行。不要な勘ぐりを避けるためのデートが月に二、三」

 双方微笑を保ったままの会話。口角を上げ続けるのが次第に辛くなってきた。けれど、千里はそれをおくびにも出さない。意地でも崩さない覚悟だった。

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