三十七話
思考を断ち切り、千里はサイトから好ましいと思われるデートプランや服装を書き出し始めた。一通り終えると、それらを分類する作業に入った。会話をしないのも不自然だと思い立ち、付き合いたての高校生がしそうな会話を検索した。会計については悩んだ。光姫は自身のポケットマネーで払おうとするのだろうが、高校生なら割り勘が相場だ。その場はすんなり引き下がっても光姫は後日払いに来る、そんな気がした。千里としては大学進学に掛かる費用を出してもらう訳なので、光姫に払わせたくはない。これ以上借りを作りたくないというのもあるが、光姫に金銭的な負担を押し付けたくないという思いも理由の一つだった。
強く差し込んだ陽光で千里は時間を意識した。デートに関する言葉で占められていた脳が急速にその割合を変化させる。
「今日は水曜日だっけ」
カレンダーに視線をやる。肯定された。千里は机を開け、薬を取り出した。一見何の変哲もない錠剤タイプの薬だ。だが、よく見れば気づく。錠剤を包んでいる包装シートに薬の名前が書かれていない。
一錠、水と共に口内に流し込んだ。慣れた動作だった。千里は物心ついたときからこの薬を飲んでいる。高校生になってから周期は長くなったが、その存在を忘れたことはなかった。千里に常用薬があることは誰も知らない。千里が意図的に隠しているからだった。
制服に着替え、千里は自室を出た。薬が見えない位置にあることは何度も確認済みだ。眠そうに見えるよう顔を作った。
使用人の一人と挨拶を交わした。
「今日はいい天気ですね。庭の花々も喜んでいそうです」
「そうですね」
どこか不自然さを感じさせるほど、理想的な微笑だった。光姫と異なる、気さくさを同居させた至上の笑み。それは光姫の微笑にも負けず劣らず美しかった。