二十九話
「狐と狸の化かし合いとはよく言ったもので、本来の意味とは異なりますが、狐の神獣と狸の神獣は変化の妖術を得意とします。色は金。必ずしもその限りではありませんが瞳や髪の色の妖術は種族全体で得意とする者が多いので、狐の方が適性が高いです」
ミラは金の瞳をしている。今までの話を総合するに、ミラは変化の妖術に適性があるようだった。
「余談ですが茶色の妖術が使える者が多いのもこれが関係していると考えられています」
淡々と喋るミラ。
「もしできたらでいいんですけど、その変化の妖術を見せてもらえませんか?」
乞うと、ミラは千里に離れるよう指示した。千里は素直にそれに従う。ミラは観察するように千里を眺め、やがて目を瞑った。その瞬間、ミラの体に変化が生じた。尾が消え去り、耳がヒトのものになったのだ。
ミラが瞼を上げる。
「これは目の前にいる相手の尾や耳の形をコピーする妖術です。私淑天眼という妖術の簡素な子供向けパターンとでも思っておいてください。神獣が神獣を対象とした場合は相手の尾や耳の形に変化するだけですが、ヒトを対象とした場合尾は消え耳はヒトのものになるようです。わたくしには経験がなかったので予想がつきませんでした」
「そうなんですね」
千里は相槌を打つ。
「私淑天眼には様々なレベルがあり、今のような目立った部分だけコピーする簡単なものから複数人の相手から様々な要素を真似し尾も耳も顔も体型も全くの別人の容姿をつくるような高度なものまであります」
晴七を思い出す。おそらく潜入の際、私淑天眼を使っているのだろう。一つ謎が解けた。
「今お見せした程度の私淑天眼は狐の神獣なら幼児ですら扱える基礎的な妖術ですが、下位の家なら当主クラスでも属性の問題で上手く扱えないこともあります。今のは極端な話ですが、種族によって得意不得意の差が大きいのは事実です」