二十八話
ミラは茜の名を呼ぶ。千里の前に姿を現した茜。落ち着きなく周囲をしきりに見回している。
「わたくしと茜様は互いの妖力を感知できます。これは視認できるものではなく、あくまで感覚の話です。本人の意思に関係なく妖力が大きければ大きいほど相手を威圧します。妖力の差がほとんどない者同士は威圧されるということはありません。例えるなら、妖力は身長です。相手との身長差が数ミリだったら気づけません。身長と違い、明確な基準はありませんが」
ミラの解説を基にミラと茜の姿に可視化した想像の妖力を重ねる。炎の形だ。大きな炎。茜が強大な妖力を有すると予想したのはこれまでのミラの発言が根拠だった。千里は神獣関係に疎いが、妖力のコントロールというのは妖力が大きくなければ必要ないということは想像に難くない。弱いのなら当人に問題が生じることは周囲に物理的な被害が及ぶことはない。
光姫直々に任命したミラから茜は指導を受けている。大して長く付き合ってないが、千里は光姫が一筋縄ではいかない性格だと学習している。茜へミラを就けた理由が家族と上手くいっていない茜への同情だけであるはずがなかった。光姫は締まりのない性格の持ち主でない。公安のトップを担う彼女はそこに一朝一夕では身につかない冷徹さ、ビジネスライクな考えを同居させている。茜の将来まで決め込んでいるかはわからないが、戦力として茜に期待していることがわかる。
「色については先程も申し上げたように説明がしにくいのですが。色は言うならば得意とする妖術の属性です。幻怪感術についてはご存知ですね。あれは色で表すなら無色です。色が無い故に多くの神獣が扱うことができます」