二十一話
「にしても、驚いたな。千里も隅に置けない奴だ。いつのまに知り合ったんだ?」
先程からしきりに頷く瑛太。友に嘘をつく心苦しさを抱え、千里は空笑いを浮かべる。
先日の婚約宣言から校内はとにかく混乱していた。千里は神獣の事情に疎く、噂になったとしても一週間かそこらだろうと軽く考えていた。だが、栗鼠森の屋敷に出現するマスコミや以前と違い敬語を使う校長を見、事の重大さを認識した。
「でも、よかったよ。千里が大学に行けて」
「狐姫様が援助してくれたから」
千里は話題が変わったことに安堵する。
これからも結婚関係でちょくちょく時間を取られるとはいえ、以前と比べ随分と勉強に時間を割けるようになった。それについては素直に感謝したい。
「でも、水臭いな。高一からずっと一緒だからもう二年は経つ付き合いだってのに。オレが話題にしたときもとぼけるなんて」
苦笑いするしかなかった。
「あの時点では表に出すわけにはいかなくて。瑛太のこと、信用してないわけじゃないんだけど。ごめん」
瑛太には光姫から指示された通りに説明していた。出会いは光姫の一目惚れだったこと、光姫に求婚されたこと、それから光姫を意識するようになりいつのまにか惹かれていたこと、その後に栗鼠森家の子供だと気づいたこと。
もちろん、全て嘘である。光姫の一目惚れは本人に否定され、千里は光姫を意識する間もなく結婚を承諾した。栗鼠森家の子供でも何でもない。辛うじて求婚は事実だが、契約結婚に近く、この偽の馴れ初めからイメージされる恋物語とは程遠い。
「確かにな。校長まで敬語を使ってたのは、千里には悪いけどあからさま過ぎて笑えたよ。やっぱ、頭が上がらないんだろうな。校長より華狐家とか猫崎家とかのほうが力持ってるし」
千里の通う猫狐学園は華狐家と猫崎家が親睦の証に共同設立した私立校だ。元々、華狐家は干支一族ではなかった。