十七話
「千里様、ようこそお越しくださいました。当家一同心より歓迎いたします。私は当主の栗鼠森清盛と申します。千里様のお部屋は二階にご用意させていただきました」
清盛に最敬礼をされ、千里は呆然と立ち淀む。栗鼠森家は家格が低いとはいえ神獣の一族だ。豪邸と呼ぶのが相応しい家にどこぞのラグジュアリーホテルかと目を疑う広い庭。栗鼠森家の当主は代々芸能事務所を経営しており、清盛も芸能人でもおかしくないルックスだ。てっきり傲岸不遜でこちらを見下すのだとばかり思い込んでいた千里としては拍子抜けもいいところで、今の状況はにわかに信じがたかった。
「ご案内いたします」
使用人らしき男性に誘導され、邸内を歩く。中庭を発見し、目を剝く。家が何軒か建つほどの広さだった。そこではチャイルドシッターと思われる神獣の女性が同じく神獣の少年相手に遊んでいた。少年は五、六歳に見える。
(あの子が次男かな?)
歩き始めて十分ほど、ようやく男性が立ち止まった。
「こちらです」
ドアを開かれる。
「ごゆるりとお過ごしください」
案内されたのは白を基調とした洋室だった。大型テレビや冷蔵庫、電話などが備え付けられており、洒落たインテリアが空間を彩っている。使用人によれば、この部屋には今いる場所とは別に寝室と書斎、バスルームがあるとのことだった。もはやこれが部屋なのかも千里にはよくわからない。
千里は教科書類を取り出した。六時の夕食まで時間がある。夕食までの数時間を勉強に充てたかった。落ち着かないが、柔らかい椅子に座る。千里は雑念を振り払い、しばし勉強に没頭した。