十四話
「続いては生徒会長、華狐光姫さんからのお知らせです」
光姫が登壇した。着ているのは、一目で高価な品だとわかる落ち着いた色合いの和服。白練色の地に桜色で描かれた花、それと同色の帯という簡素なデザインであることが光姫の美しさを引き立てていて、昨日と違う魅力があった。千里は色留袖ではないかと当たりをつける。
「最近、校内でわらわの婿選びについて耳にする」
聴衆がざわついた。本人から話されるとは思ってもいなかったのだろう。
「今日のお知らせは他でもないそのことについてじゃ。わらわは三年一組の栗鼠森千里と結婚する」
全校生徒の視線が千里に向いた。嫉妬や畏怖も多いが、大半は好奇を含んだ視線だ。当然といえる。昨日まで千里と光姫は双方何の関わりもなかった。加えて言えば、いきなり苗字が栗鼠森に変わっている。不思議に思わないほうがおかしい。
「わかっておるとは思うが、千里を害することはわらわを害すること。もしそのようなことがあれば、わらわは華狐の名誉にかけて徹底的に戦うこととなる。賢明な判断を期待する」
光姫は牙を覗かせ、釘をさした。
華狐家の一員。その地位をたくさんの者が望んできた。得られる権力も財産も地位も一般人ではどんなに努力しても得ることが難しい。それを掻っ攫って行った千里に対する悪意を光姫は認めながらも平然とあしらった。光姫自身、過去に何度も命を狙われているというのに。
千里はそれが心底恐ろしい。
「以上じゃ。わらわは千里と抜ける。続きを頼む」
訊きたいことが山のようにあった。好機と捉え、講堂を後にする。生徒会長室まではそう遠くない。千里は疑問点をまとめながら、足早に向かった。