十三話
「今日はもう遅いから良いが、明日からは栗鼠森の家で生活してもらう」
すっかり気を取り直したようで光姫は口角を上げ、千里に命じた。当然、千里は抗議したが、光姫は聞く耳を持たない。
「明日、お主が学校にいる間に業者を呼んでおく。無論、代金はこっち持ちじゃ。手土産も用意させておくからそれを渡すといい」
「ありがとうございます。栗鼠森家は、ご家族は何人いるんですか?」
光姫の心変わりを諦め、情報収集へと路線を切り替えた。
「同じ家で暮らしているのは六人。当主である父親、法的な妻である母親、その息子であり長男、同じく長女、同じく次男。愛妾との三女。次女がいるが、別の愛妾が自分の家で育てている」
典型的な富裕層の複雑な家庭だった。
「俺と関わりができそうなのはどなたでしょうか?」
「三女じゃな。名はほのか。お主も知る生徒会書記の少女じゃ。少し変わったところがあるが、根は優しい子での。お主に一番友好的じゃ」
ここで初めて光姫の表情が和らいだ。生徒会で交流があるのかもしれない。あどけなさすら感じさせる幼気な瞳に千里の心臓が音を立てる。
「あとは、五歳の次男か。浮世離れした性格の子じゃな。無口だが、勘が鋭い。恐らく、長男より妖術の才能に恵まれておるの」
礼を言い、部屋を辞そうとすると、引き留められた。
「お主、忘れておるじゃろ。明日は全校集会。その際、お主との婚約を発表するぞ。心の準備をしとけ。今までと環境が一変する」
光姫は真剣そのものだった。