十二話
歓笑する光姫。千里は唇を噛んだ。千里の抱える事情について光姫はまだ知らない。だが、少しでも興味を持たれたらすぐに千里がただの孤児ではないとわかってしまうだろう。光姫の口が堅いことが救いだった。
(いや。ポジティブに考えよう。大学進学の費用を出させるよう取り付けた。幸いなことに巽谷も偽造の戸籍だ。調べても、母親と山の中で暮らしていた過去しか出てこない。本当の秘密には気づけない)
「千里の言った条件の件じゃが、うちの家臣に栗鼠森という家がある」
「知っています。生徒会書記を務めている一年生がそうでしたね」
この学園は私立のため普通の公立高校より神獣、特に創立者である狐と猫、その配下の子が多い。
「あそこの家の当主には貸しがある。当主がヒトとの間に儲けた落胤だったが、認知されたという体で通す。それなら、わらわがお主を選んだことに文句をつける輩は出にくい。当主とその家族には話すことになるが、どうじゃ?」
「願ってもないことです」
千里がこの学校を選んだのは特待生制度があることより国に情報が渡らず、内申点を重視しない入試制度であることが大きかった。そういった意味で光姫の提案は正に棚からぼたもち。思いがけない幸運だった。
「わらわは成人しておるが。お主、誕生日は?」
光姫は四月生まれだ。必然的に千里の成人を待つことになる。
「九月九日です」
「では、その日に式を挙げよう。婚姻届も、じゃ」
光姫は一瞬、今までとは系統の異なる表情をした。何かおぞましい想像に思い至ったかのような、それでいてそんな想像をした自分を失笑するような、そんな顔つき。