十一話
頭の中で思考の渦が巻き起こる。結婚は承諾し、従順さをアピールしつつ、自分に有利な条件を呑ませるべきという結論に至った。
「結婚を受け入れます。ただし、条件があります。俺の苗字や戸籍を変えてほしいのです」
「どういうことじゃ?」
光姫は顔をしかめる。
「俺が孤児であることを理由に差別されたりするかもしれないでしょう。それが嫌なのです。俺の苗字か戸籍を変えれば孤児であるということがバレずに済みます。あなたにとっても悪い話ではないでしょう」
光姫は千里の提案の是非を考えあぐねている様子だった。千里は判断力を鈍らせようと喋るスピードを上げる。
「ヒトと結婚するということがどういうことかは神獣ではない俺にはわかりかねます。でも、想像はできる。決して良くは思われていないでしょう。一般的にヒトは神獣よりあらゆる分野において劣る生物です。しかも、孤児ときた! 心証は最悪でしょうね。干支一族の当主の婿が深夜までバイトをしていたなんて相当な恥。どこの馬の骨ともわからない奴だとますます敬遠されます。どうです? 双方にメリットのある良い話だと思いませんか?」
光姫は不機嫌そうに顔を歪めながら、言い放つ。
「ああ、わかった。お主の要求を呑もう」
何とも言えない恍惚とした感情が千里の胸を満たした。しかし、それも数秒後には光姫によって掻き消される。
「じゃが、今ので決まりじゃ。お主はわらわの求婚を聞き入れた」